一度会っただけで 結婚を決めた理由

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一度会っただけで 結婚を決めた理由

 同じ学校へ向かう。一緒に行くわけではないが、部活の朝練のために、どうしても同じ時刻に出発することになる。仕方ないのだ。私の部活の顧問が同じ家に住んでいるのだから。しかも歩きで行ける距離なので、ほどよく距離をとって歩く。  表向き別居しているふりをしているが、校長先生には担任に決まった後に 姉の婚約と同居の件を話したので、担任はこの人のままとなった。  何も後ろめたいことはないのだが、同級生には知られたくないので黙っている。面倒くさいことは嫌いだ。  早朝、誰もいなかったので、少し離れて歩きながら聞いてみた。 「なんで一回会っただけで婚約したの?」  これは普通に気になる話だった。  姉は細かなことに気を配らないので、好きになったら結婚すればいいという考えだが、結婚というものは、もっと慎重であるべきだと思う。若い私が言うのもなんだが、そんなに簡単に人生を決めていいの? 色々な思いをこの一言に託した。 「結婚しようと思って婚活していたわけだが――会ったその日にプロポーズされるとは思わなかったな」 「それはそうだね」  同感だ。全くうちの姉は何を考えているのだろう。 「とりあえず、家族が欲しかったから、俺でいいなら結婚してほしいと思って」  なに? とりあえず家族が欲しいから?  安易すぎる人生の選択。この人、大丈夫だろうか? 「お姉ちゃん、全然うちにいないけど好きなの? 結婚してもあんな感じだと思うよ」 「好き……なのかな」  何? この疑問形?  大丈夫? うちの担任。 「だってずっと不在だよ。海外だとか演奏会ばかりで」 「結婚してもずっとそんな生活だったら……まぁ寂しいかな」  まぁ寂しい? そんなレベルの話? 「俺、両親早く亡くしていて家族に憧れるっていうか……お母さんもお父さんもいて。もう、俺たち家族じゃないか」  何その考え。生い立ちに同情こそするけれど、家族として私も認識されているとは。寂しがり屋か? こっちは年頃の女の子なのに、血のつながらない兄(予定)がいることが迷惑なのに。 「私は迷惑なんですけど」  本音を言ってみた。 「そうか。ごめんな」  先生は少し寂しそうな顔をした。罪悪感に苛まれる。  あーだこーだ言っているうちに学校についた。  この瞬間から先生と生徒だ。  私は先生の洗濯物の下着にすらドキドキしていたのに  家族っていいよなって思われていたなんて。むかつく。  今日は思いっきり、ボールにぶつけるぞ!!
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