ACT1 暴言吐きまくり女子だけどなんか可愛いのは何故だろう?

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こいつはあほか…?悪いが俺は、本気でそう思った。  いくら患者とはいえ…老い先短いじーさんのために、病室で「天城越え」を歌うつもりなのか?こいつは?  きなこは、俺にしてみりゃ理解不能で、まるで別世界の人間みたいだ。  こいつの感覚は何がずれてる。  俺は、返事に困って、半ば呆然としたまま、きょとんとするきなこを見つめていた。  不思議そうに首をかしげたきなこが、ぱちぱちと長い睫毛を揺らして瞬きしている。 「てっちゃーん?おーい?てっちゃーん?また瞳孔開いちゃったよ~?生きてる~?」  生きてはいる…だが、ある意味このまま天昇したい気分だ。 「あのな…きなこ…そりゃな、まかりなりにも俺は、一応ボーカリストだしな… 大抵の曲なら歌えんだけどさ…無理…演歌は無理!」 「えー…」 「だから!えー…じゃねー!こっちの方がえーだわ!」  大体、演歌とロックは全くジャンル違いってもんだ。  発声の基礎は同じかもしんないけど、歌い方が違うって訳。  俺、こぶしとか回せねーし!! 「はぁ…」  俺は、げんなりしてため息を吐いた。それから、まじまじときなこの顔を見て、もう一回ため息を吐く。 「いくら俺でもな~…教えてやれることと、やれないことがあるっつーの。 とりあえず、演歌は無理」 「えー…」 「だからえー…じゃねー!」 「だったらさ」 「なんだよ」 「あれ歌ってよ!」 「なに?」 「MaindHurt…!」 「は?」  きなこの答えを聞いて、俺の目はまたしても点になった。  何故かって言ったら。 『MaindHurt』は、俺が作った曲で、うちのバンドのオリジナル曲だからだ。  インディーズでCDは出してるけど、カラオケなんぞに入ってる訳がない。  ほんとにズレたことばっかり言うやつだなって…俺は、今更ながらそう思う。  だけど、『MaindHurt』を歌って欲しいって言うきなこの目は、やけに無邪気で、やけに嬉しそうだった。  まっすぐに俺を見つめるきなこ。  まさに羨望の眼差し的なにかだ…  俺は、自分の銀髪に片手を突っ込んで、もう一度ため息をつく。  それから、あえてカラオケのエコーレベルを低くして、テーブルの上のマイクをとった。 「アカペラですが…いいんですか?」  あえて、きなこにそう聞く俺。  きなこは、その大きな目をキラキラさせて、思い切りうなずいた。 「うん!」 そんなきなこの様子に、まんざらでもない俺は、大きく息を吸い込んで、いつものライブのように歌い出した。  きなことの奇妙な夜は、そんなこんなで、更けていった…
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