1人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、言いたいことっていうのは?」
「あ、それはですね…」
そう言うと、少女は少し言葉を選んでいる様子を見せた後、
「私、あなたのことが好きです。付き合っていただけませんか?」
と言った。
「すまないが、私にはカナが…」
「でも、もういないじゃないですか。私が殺しちゃいましたよ?」
「あぁ……、それもそうか」
もう何が何だかわからない。ただ一つだけわかっているのは、
「カナは死んだ。君が殺したんだな」
絶望しか感じられないような事実がただ一つの確実なものであるというこの状況に、軽く皮肉を覚える。逆説的には、それだけの余裕が出てきたともいえる。それはむしろ諦めのようなものかもしれないのだが。
「はい、私が殺しました!」
少女は誇らしげに胸を張って答える。そんな気はしていたが、やはりこの少女は何かおかしい。少なくとも普通の感覚は持ち合わせていないように感じる。
「念のために扱いを練習しておいて本当に良かったです!悪い虫を潰しちゃうのはもうちょっと後でいいかなと思っていたんですが、思ったより早く動きだしてきて、しょうがないからこんな強硬手段……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
思考がまったくもって追いつかないが、とにかく、これだけは訊いておかないといけない。
「そもそも、君は誰なんだ?」
「え?」
……何故訊き返されたのだろう…?
混乱のあまり意味不明なことを口走ったのかもしれないと思い、もう一度尋ねる。
「いや、僕は君の名前を知らないからね。ぜひ教えてほしいんだ」
「え?」
駄目だ、まったくもって意味が分からない。
困惑する私に追い打ちをかけるように、少女は言う。
「なんで私のこと知らないんですか?私ずっと見てたんですよ?ずっとずっとずっとずっと!」
まくしたてる少女に気圧されて何も言えなくなる。
そしてその隙を突いたかのごとく少女は、
「待ち伏せも嘘ですよ私見てましたからねあなたがあのゴミムシに言い寄られてる時もそれと一緒に歩いてる時も!あんな奴はろくな話もできない言葉もほぼ話せないような下等な輩なのにむしろ下等な輩だからこそあなたに言い寄るなんて馬鹿な事をできるんでしょうけど!!それにあなたの方もゴミムシに隣を歩かせるなんてことをしては私の未来のお婿様として自覚が足りないのです!!!そんなことをしているようでしたら本当に本当の強硬手段に出ますいえ今にもするしかないいやしなければならないする!!!!そうだ思いついた一つになりましょう一つにそうだそうしましょうそうしましょうあなたは先に逝っていてください私も1分1秒1フレームの狂いもなく同時に逝きますから一緒です寂しがる必要はないですよさあ一緒にさあさあさあさあさあ!!!!!」
少女はもう一度大斧を振り上げる。もう一度大斧を振り下ろす。
今度は僕の頭が割れる番。
今度は僕の身長が少女のそれと同じくらいになる。
痛みはない。やはり少女の腕は伊達じゃない。どんな練習をすればこんなことができるのだろうか………。
そんな的外れなことを考えながら眠りにつく。
最初のコメントを投稿しよう!