明け方、一人外に出る

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明け方、一人外に出る

自分の気分の落ち込みとは裏腹に、今日も太陽は顔を出す。赤い赤い光線が、水平線から飛び出してきて、あっという間に空から星々を引き剥がす。夜が隠していた全てが、一つ一つ暴かれるように輪郭を取り戻す。俺は、住宅街の細い道路の真ん中に仁王立ちになり、なんとか自分を保っていた。熱帯夜が続き、一週間ほど良く眠れていない。仕事は苛烈を極め、それなのに人間関係なんてボロボロで、支えなんてありはしない。へなへなとその場にしゃがみ込み、道路の真ん中で大の字になって寝てみた。熱を持ったアスファルトが、ゴツゴツと背中を刺激する。空は青さを取り戻し始めている。空気は湿気で重たく、深く吸い込んでも不味いだけだった。真横に視線を移すと、ゴミ捨て場のペットボトルが、朝日を反射して輝いていた。もう役割を果たして、あとは回収を待つだけの存在。それが輝いて見えた。あんな風に空っぽになって、潰されて、それでも太陽を浴びて輝くことが出来る。羨ましい。俺も全て忘れて空っぽになって、誰かの威光だけに縋って生きていけたなら。今、こんなことに気付きはしなかった。自嘲し、いい加減に居心地が悪いので起き上がった。そうして、フラフラと目的地へ歩き出す。 公園に着くと、用意していた小鳥のエサを地面に撒いた。豪快に。そうして、少しだけ離れたブランコに腰掛け、様子を見守る。「鳩にエサを与えないでください」標識が目に入るが、もうどうしようもない。小鳥のエサは、砂と砂の間に混じるように広がってしまっているから。最初に一羽の雀が舞い降りた。それから、椋鳥、鵯、土鳩、白鶺鴒、燕、目白に四十雀がやってきて、公園は小鳥たちの社交場になった。夢中でエサをついばむ小鳥たちは、頭を上下に振りながら歩き回る。まるで、ダンスでも踊っているようだ。心が和んだ。仕事では満たされない器を放り出して、別の器を手に入れた気分だった。かすかに漏れ聞こえる、小鳥の鳴き声はヒーリングソングだ。そのテーマに合わせて、小鳥は踊り舞う。俺のためだけの舞台で。遠くに入道雲が見える。今日も暑くなるんだろう。辺りはだいぶ明るくなっていた。
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