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壊れるのは一瞬
突如、小鳥たちが動きを止めた。小鳥たちが警戒して見上げる先を辿ると、街灯の上に一羽の鴉が止まっていた。カァ、カァと鳴き声を上げ、仲間を呼んでいるようだ。冗談じゃない。俺は街灯の下まで行き、鴉を睨みつけた。鴉は俺に気付くと、鼻で笑うように見下ろした。
「おい、誰の許可取ってここに来てやがる」
「カァ」
「ここにお前にやるエサはねぇ! さっさと失せろ!」
「カァ、カァー!」
思いっきり、街灯を蹴飛ばした。ゴウン、という音と共に振動が鴉に伝わる。鴉は一瞬飛び立ったが、またすぐに街灯に戻ってきて、馬鹿にするように喚き散らす。
「テメェ、舐めてんのか」
「カァー」
鴉は首を傾げると、今一度飛び立った。そうして、今度は俺に向かって急降下してきたのだ。
「うわっやめろ!」
鴉は嘴と脚の爪を使い、俺に襲いかかる。腕を振り回したところで、そんなものは空ぶるばかりで、俺の腕や顔に傷が増えていく。堪らず、公園を追い出される。最後に振り向いて確認すると、俺の踊り場に小鳥は一羽もいなくなっていた。
「カァ、カァ!」
勝ち誇るように鴉は鳴いた。俺は情けなく走り去るしかなかった。途中で無様に転けた。膝を打ちつけ、痛みを感じた瞬間、身体がドッと重たくなる。なんとか立ち上がるが、身体を引きずるように家まで帰った。
部屋に帰ると、すぐにエアコンをつけた。まとわりつく湿気から、早く解放されたかった。床に寝転ぶと、意識が遠のいていった。
テケテンテン、テンテンテーン
遠くでスマホの着信音がする。けれど、身体が動かない。
テケテンテン、テンテンテーン
出なければならない。出たいわけではない。
テケテンテン、テンテンテーン
「ああっ、もう!」
力任せに身体を起こし、会社の鞄からスマホを取り出す。そうして、電話に出た。
『いったい何を考えているんだ、君は!』
怒号から始まった通話の、内容なんて頭に入ってこなかった。ただぼんやりと、自分は連絡も入れずに欠勤して、会社は対応でドタバタとしたのだろうということだけ。俺は、適当な相槌しか打たず、生返事で答えていた。
『聞いているのか! 君のせいで、』
そこで、プツリと通話を切った。そうして、スマホの電源も落としてしまった。スマホを放り投げる。気がつけば声を上げて笑っていて、気がつけば頬を涙が濡らした。そのまま、素足のまま家を出る。外は土砂降りの雨になっていた。
「ハハハハハハハ!」
笑いは止まらず、そのまま雨の中を歩く。あんなに湿気が嫌だったのに、今となっては気持ちがいい。身体が底まで冷えるまで、打ちつけられていたかった。
「自由だ、俺は自由だーー!」
叫びは街と曇天の中に消えていく。足早に人々は去っていく。鴉が興味深そうにこちらを見ていた。
注釈
椋鳥=ムクドリ
鵯=ヒヨドリ
白鶺鴒=ハクセキレイ
四十雀=シジュウカラ
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