食事を終えて食器を片付けようと腰を上げると彼に引き止められたので、美月は厚意に甘えてしばしくつろぐことにした。
ほどなくして洗い物を済ませた彼が、それぞれのマグカップにコーヒーと紅茶を注ぎ、ソファへ腰を下ろして互いの間にある距離を詰めてくる。
すぐに美月専用のマグカップが差し出され、お礼を言って受け取ってから紅茶を一口飲む。
周囲を見回しつつ何気なく思ったことを訊いてみた。
「もしかして昨日もここに泊まったりした?」
「いや、泊まってないけど……なんで?」
「ううん、なんていうか、生活感が溢れてるからちょっと気になっただけ」
「ああ、それなら母親だよ。昨日ここに来てたから」
「えっ、お母さん?」
「うん、たまに東京から遊びに来るんだよ。
俺がいようがいなかろうが適当にくつろいで勝手に帰るんだけど、突然何の前触れもなく現れるから困ってる。
しかも必ずと言っていいほど事後報告。忙しい人だから、ほとんど日帰りで帰るけどな」
「すごい……お母さん、タフだね」
「自由気ままなだけだよ。
これと決めたらわき目も振らずに突き進むタイプ。いわゆる猪突猛進型だな。本能で生きてるって感じ」
彼の口から母親の話題が出るのは初めてなので、とても新鮮だった。
最初のコメントを投稿しよう!