「パワフルな方なんだね」
「よくいえばな。俺は振り回されてるけど」
彼は口元を吊り上げ、困ったような笑みを浮かべている。
言葉では手を焼いているようなニュアンスに聞こえるけれど、表情は母親を思う息子の顔をしていた。
「俺んち、離婚してんだよ」
突然のカミングアウトに、えっ、と美月は小さく声を上げた。
目を見開いたまま、まじまじと彼を見つめる。
「そうだったの」
「うん。俺が高一の終わりくらいかな。
父親の何気なく発した言葉が母親の地雷を踏んでしまって、喧嘩が勃発してさ。
離婚するって宣言して家を出たっきり帰ってこなくなって、関係修復ができないまま離婚に至ったってわけ」
言葉は一度発したら取り戻せないものだ。使い方を間違えると厄介な凶器になる。
人を傷つけ大事なものを失ってしまうどころか、言葉一つで相手の心に傷を負わせてしまう。
何気なく発した一言が、時には人の運命を変えるきっかけになるのだから、言葉の威力は計り知れない。
「俺の父親は堅物というか、物事を合理的に考える人でさ。
家のことも放ったらかしにして母親に任せっきりにしていたし、いろいろと蓄積していたものが爆発したんだと思う。
でもまさか本気で離婚に走るとは思ってなかったみたいで、親戚一同、天地がひっくり返るような衝撃を受けてたよ」
あれは可笑しかった、と小さく思い出し笑いする彼からは、悲壮感など全く感じられなかった。
離婚すると決意したところで易々とできるようなことではない。
自由を得ることは、その代償としてここに至るまでに手にしたきたものを投げ打つことになる。
それでもためらいなく踏み込んだという彼の母親の心情を思うと、よほど腹わたが煮えくりかえるような思いをしたのか、あるいは彼女にとって離婚という手段がごくありふれたツールに過ぎなかったのか。
もしかしたら両方なのかもしれない。
どちらにせよパワフルな人には間違いないと思った。
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