「んで、失ってからようやく妻の大切さに気づいた父親は、今では積極的に母親へ歩み寄って虎視眈々と復縁を狙ってる。
母親はいい気味だとか言って邪険に扱ってるみたいだけど」
元サヤになるのもいずれ時間の問題かもな、と彼はどこか人ごとのように呟いた。
「母親が離婚に踏み出したとき、俺は真っ先に家を出るチャンスだと思ったんだ。
周囲の反対を押し切って迷うことなくついていった。きっと俺は母親に似たんだろうな」
目尻を下げる彼につられて、美月も優しい顔になる。
清々しい表情からは、後悔や未練など一切ないように思えた。
「ありがとう。話してくれて」
生きていれば、誰にだって立ち入って欲しくない部分がある。
彼に何らかの事情があることは少なからず察していた。
でも、あえて触れてこなかった。それが恋人への労わりや優しさであると思っていたから。
きっとその気持ちは彼にも伝わっていたのだろう。
こうして打ち明けてくれたことに美月は感慨を抱いた。
「……いつか会ってみたいな。浬のお母さんに」
「今度紹介するよ。
きっと美月のことすごく気に入ると思う」
「そうだったらいいな」
屈託なく笑う美月を、彼が愛おしい者を見る目で見つめる。
二人を纏う空気は、優しさで包まれていた。
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