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施錠をして会社を出た頃には日は沈み、夜の帳が下りていた。
――お腹減った……。
雑務に追われ歩き回ったせいか、足がいつにも増してだるくて重い。
秘書は華やかそうに見えて地味な仕事だとつくづく思う。
――夜ご飯、どうしようかな……。
会社の最寄り駅から美月が一人で住んでいるアパートまで、電車と徒歩を合わせて四十分ほどかかる。
うろ覚えだけど、確か冷蔵庫の中には食べ物になりそうなものはなかったはず。
今からスーパーに買い出しに行くとなれば、帰り着く前にスタミナが底をついてしまいそうだ。
駅を目指して歩いていると、ふと懐かしい匂いに鼻をくすぐられて美月は足を止めた。
視線を移した先には、最近オープンしたばかりのラーメン店がオフィスビルに挟まれるように建っている。
「うわ、懐かしい……」
関西の国立大学に在籍していた頃、帰りがけに通い詰めるほど食べ尽くした懐かしい味が、美月の脳裏を奮い起こす。
大学の近くにひっそりと建ち、知る人ぞ知るそのお店には、かけがえのない大切な思い出が詰まっている。
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