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期待に胸を膨らせて臨んだ入社式から早くも三週間が経ち、四月も終わりに近づきつつある心安らかなこの日、雲ひとつなく冴え渡る空とは裏腹に、美月の心には暗雲が垂れ込めていた。 ――ああ、とうとうこの日が来てしまった。 Kiyomiya Chemicals Co.,Ltd――清宮化学株式会社に中途採用枠で入社した美月に辞令が言い渡されたのは遡ること二週間前。 つまり、入社式より一週間が経ってからのことだった。 辞令交付式での発令を耳にしたときは息が止まりそうになったのを、今でもはっきりと美月は覚えている。 なんと与えられた配属先は、希望していた配属先とは全く異なる総務部•秘書課だったからだ。 大手食品メーカーの経理部に勤めていた経歴を持つ美月は、これまで培ってきたスキルを活かせればと思い、前職と同様の部署を志望していた。 それなのに全くの未経験、しかも新入社員の配属は極めて稀だと言われている秘書課だなんてーー。 なぜ? と、式が終わってからもしばらくは放心状態で、その絶望ぶりは同期からひどく同情されてしまうほどだった。
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