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「おい、熱があるだろう。
待ってろ、今看護師を呼ぶから」
「大丈夫です……それより、ケーキを……」
――最後まで食べさせてください……。
熱に炙られているせいで途絶えてしまった言葉の意図を感じ取ったのか、彼は表情を歪ませて射るような眼差しを送ってくる。
「そんなものはいいから、今は身体を休めることだけを考えてくれ。頼む」
そう言って、彼は素早く電動ベッドのリモコンを取って操作する。
徐々に上体がフラットに近づき、だんだんと映し出される天井をうっすらと目を開けて眺めていると、視界の端で彼が悲痛そうにこちらを見下ろしていた。
普段、会社で見る彼とは違う、苦渋に満ちた表情。
まるで自責の念に駆られているようだった。
そんな顔をしないでほしいと、美月は夢うつつのなか思う。
いつもみたいに澄ました顔で嫌味や皮肉を言ってくれたら、心が締め付けられることもなかったのに。
見た目はさらに洗練されても、直情径行で、それでいて少し不器用なところはあの頃のまんまだなと、美月はかすかに唇を緩ませた。
眠りの深淵へ誘われるように重たい瞼が降りてきて、不意に視界が閉ざされた。
熱に浮かされる美月の赤く染まった顔を、清宮は唇を噛み締めて見つめていた。
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