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彼に初めて会ったときの第一印象は、とてもきれいな食べ方をする人だと思った。
大学進学を機に故郷の長崎を旅立ってから怒涛の三ヶ月が経ち、京都の暮らしに馴染みつつある頃。
西門を出てしっとりと雨露に濡れた紫陽花を横目にキャンパス近くの交差点から裏通りに入っていくと、息をひそめるように佇むお目当てのラーメン屋が見えてきた。
店の前で足を止めた美月は、畳んだ傘を軽く振って雨粒を落とした。
霧雨をかき分けるように水滴が飛び散り、地面に浮かぶ水たまりを弾く。路上に溜まった雨水が夕日の光を受けて鮮やかに煌いていた。
丁寧に折りたたんで傘立てにしまうと、暖簾をくぐって店内に足を踏み入れる。
「ヘイッ、いらっしゃいっ」
この声に迎え入れられると、なんだか故郷に帰ってきたようなくすぐったい気持ちになる。
築年数を重ね、古風でこぢんまりとした店構えのラーメン屋は、人目につかない奥まった場所にあるからか、大学からほど近い距離にあるにも関わらず、学生らしき客は見当たらない。カップルや親子連れ、会社員と客層も様々だ。
顔馴染みの常連ばかりが集うこの店は味が絶品なうえに居心地がよく、ゆえに美月のお気に入りの場所だった。
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