act5

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定位置のカウンター席に腰を下ろし、いつも通り大ラーメンと餃子のセットを注文した美月は、キンキンに冷えたお冷で乾いていた喉を潤す。 店員から差し出されたおしぼりで手を拭いていると、厨房に立つ店主が目を細め、軽く身を乗り出してくる。 「お疲れさん。もしや今からバイト?」 「はい。その前に腹ごしらえに来ました」 ふふっと微笑むと、店主も嬉しそうに口元を緩めた。 十年前に東京の中堅企業を脱サラして以来、一人でラーメン屋を営む店主は恰幅がよく、一見近寄りがたい雰囲気を纏っているが、笑うと目尻が下がってたちまち表情が柔らかくなる。店主の優しい人柄が垣間見えて、ほっこりした気持ちになった。 「美月ちゃんが来てくれたってことは、もう一週間が経ったのかぁ。早いねぇ」 日々節約を心がけ、浪費には無縁の美月は一週間頑張った暁にご褒美として週に一回、このラーメン屋に赴くことを許している。 毎週金曜日、その日の時間割にもよるが、だいたいが夕暮れ時のこの時間帯で、授業を終えてバイト先に向かう前に立ち寄るのが恒例化していた。 今では顔馴染みの常連客へと仲間入りし、強面の店主ともすっかり打ち解けている。
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