一.

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一.

 (だいだい)色よりも少し薄い色味をした夕陽が歩道を照らす、時刻にして夕方の五時。夏も終わったからか、前ほど日が長いということはなさそうだった。  高校生一年生の花卉(かき)(がい)美希(みき)は、日課ともなったある場所へ向かう道を歩いていた。  駅前のロータリーを抜けると、人の多いスクランブル交差点を小走りで走り抜け、赤信号になるまでに斜め向かいの歩道へたどり着く。 「は、はっ……、ん、よし」  少し息を切らしながらも、口元を拭うように腕を動かし軽く深呼吸をしてから再び歩き出す。彼女が前進するたびに、ポニーテールにした黒髪の毛先が左右にふれている。  彼女には、学校が終わった放課後に必ず来る場所があった。もっとも、それは火曜日と木曜日のみで、土日はあまり来ない。  ゲームセンターの中に入り、まっすぐにとある筐体に向かって歩いていくと、立っていたブレザーの制服を着た少年に声をかける。 「ライくん!」  振り返った彼はパッ、とひまわりが咲くような明るい笑顔になった。 「あ、来てくれた!」 「待たせたかな?」 「ううん、俺もさっき来たところ」  にこやかに笑う彼は、ライ。もちろん、本名ではない。シオンというのも美希の名前ではなく、いわゆるハンドルネームである。  そう、美希が放課後やることとは、仮想世界が舞台となったゲーム“Halloween of Wizards(魔法使いたちのハロウィン)”にログインできる機械を設置したゲームセンターに来て、彼と会うことだった。
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