2話 夜の森で遭遇

1/1
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

2話 夜の森で遭遇

「お尻……いたい……」  ティザーの都を追放されてから、ず〜っと馬に乗っていたら、お尻が痛い。  西の地平線にあったお月さまが、今は頭上にある。  数時間は馬に乗ってるんじゃないかな。時計が無いから、詳しい時間は分からないけど。  わたしは今、馬の首にもたれている。  ずっと座ったままの体勢で疲れたからだ。  まだ頭の中が混乱してる。  無二の親友と思ってたナオが、実はわたしのことを嫌っていた事。  ナオがプレイヤーキャラになっていた事。 「あ〜もう! なにがどうなってるのよ!」  わたしの叫びは、夜の森に虚しく響くだけ。  他には、ポッカポッカと馬の蹄の音しか聞こえてこない。  二つもお月さまが出てるから、真っ暗な夜じゃ無いだけマシかな。  こんな気持ちで外まで真っ暗じゃ、めちゃくちゃ気分が凹んでしまう。  月明りがほんのりと差し込む、森の中を馬は進んいる。  どこに向かっているんだろう?  馬なりに任せているけど、そもそもあの都以外に、何かあるのかなぁ?  ゲームじゃ、イベントも基本、ティザーに都の中だけだったわけだし。  よく考えたら、ずっと都の中で恋愛イベント多発って、ゲームとしてどうなのよ。  もっと都以外の場所イベントを用意しておいてと、わたしは言いたい。  そうすれば、こんな苦労をすることもなかったのに。  はぁ……それも今となっては、どうでもいいことなのよね。 「よぉ、お嬢さん。こんばんは」  うわっ!? びっくりした……なに、このガラの悪そうなおじさんが、急に出て来たんですけど。  毛皮を肩からかけてるおじさんが、ニヤニヤしながら、わたしを見てる。  こんな夜の森で、知らないおじさんが出てくるなんて、結構怖いんですけど…… 「こんな時間に一人で、どこに行くんだい?」 「げひゃひゃひゃひゃ! 身なりからどっかの貴族さんだな、こりゃあ」  うわぁ〜……他にもガラの悪そうなおじさん達が森の中から、たくさん出て来たんですけど。  毛皮を腰に巻いたり、頭にバンダナみたいなの巻いたり……多分これ、すごい不味い展開だ。 「ほぉ……こりゃ、高く売れそうだな」 「リーダー!」  おじさんたちの背後から現れたのは、ニヤついた少年。  というか、今おじさんたち【リーダー】って、呼んでなかった?  え、こんな若い少年が、このおじさんたちのリーダーなの?  えーっと、わたしが今十七だから……うわぁ〜わたしより幼く見えるんですけど。 「おい、そこの女!」  えっと……わたしの事だよね?  女なんて、わたししかいないし。黙ってても無駄そうだし。あ、もしかしたら助けてもらえるかも。  こんなガラが悪そうに見えて、実はいい人たちの可能性もあるわけで。  人を見かけで判断しちゃダメだよね、うん。 「な、なにかしら? わたくしに何かご用?」 「用? ああ、ご用もご用。今からお前を拐って、金持ちに売りつけようって思ってるんだからな」 「さすがだぜ、リーダーぁ! こんな上玉ならきっと高く売れそうだぜ!」  おじさんたち、嬉しそうに笑っているけど。  わたしは笑えない展開だよ、これ。  あ〜この後の展開が読めるわ。 『まずは俺たちで、たっぷり味見してやろう』とか言われちゃうんだ。 「そうとなりゃ、まずは俺たちで、たっぷり味見してやろや! なあ、リーダー!」  あ〜あ〜おじさんたち、すごくテンション上がってるじゃない。  どうしよう……戦う? いやいや、イザベルはただの男爵令嬢だから戦えないって。  馬さんは、ハムハムと呑気に草を食べてるし。  これじゃあ、逃げるのは無理。 「そうだな……よし、そうと決まれば、その女をアジトまで連れて行くぞ。女を馬から降ろして、歩かせろ!」 「さあ来い、女!」  毛むくじゃらの太い腕が、手綱を持つわたしの腕を掴んだ。  ああ、やっぱり……わたしの純潔が、こんな知らないおじさんたちに…… 「って、嫌ああ!!」  ドスっ! 「がぁっ!?」  ふぇ? 離してもらおうと、抵抗しただけなのに。  わたしの肘打ちで、おじさんが森の中まで飛んでいったんですけど。  ど、どう言うこと? 「……てめえ、この(あま)ぁ!」  ひょおお!? 他のおじさんが、またわたしの腕を掴もうとしてるよぉ! 「嫌ぁ!」  ゴス! 「ぬっはああ!?」  まただ。  わたしに殴られたおじさんが、またぶっ飛んでいった。  なに? え、イザベルってこんなに強かったの!?  男爵令嬢って、こんなに強いものなの? 「てめえ……ただじゃ済まねぇぞ……」 「覚悟しなぁ」 「俺たち【(あかつき)の盗賊団】を舐めてんじゃねぇ!」  あ、これは本格的にマズイ。 【暁の盗賊団】のおじさんたちが、剣とか斧とか手にしてる。  すっごく怖い顔で睨んでるよ。もしかしなくても、わたしピンチなのかも……  女の子一人に、本気になっちゃうなんて、大人気(おとなげ)ないよ、おじさんたち。 「おいおい……誰が暁の盗賊団だって?」  不意に背後からの声に、思わずわたしは振り返った。  フードを浅く被った男の人。  そこから見える、切れ長の目と青い瞳が印象的な銀髪の男の人。  盗賊団のおじさんたちも、その声の主を見て動揺している。 「……て……てめえは、ロイっ!?」 「まさか、生きていやがったのか!!」  腰から短い剣を抜くと、銀髪の男の人はニッと笑った。 「ああ、お前らにきっちりと復讐するために……なっ!」  あっという間の出来事だった。  銀髪の男の人は素早い動きで、盗賊団のおじさんたちを次から次へと斬り伏せていった。  残っていた盗賊団のおじさんたちも既に姿はなく、静かな夜の森の中には、わたしとその銀髪の男の人だけ。  まあ、その周りには、生き絶えたおじさんたちがいるんだけどね。  でも、この人なんなの? 乙女のピンチに出てくるなんて、まるでヒーローみたいな人。  唖然としているわたしに、銀髪の男の人が近づいてきた。  今更気がついたんだけど、この人の頭の上には猫のような耳が二つある。  じゅ……獣人さんだ……初めて本物みちゃった。 『ロイヤルプリンス』内に、獣人なんていなかったから新鮮だ。  あ、見惚れてる場合じゃなかった。助けて貰ったお礼を言わなきゃだ。  もしかしたら、あのまま襲われて、大変な目にあったかもしれないんだし。  馬から降りたわたしは、銀髪の彼にお礼を言おうとし矢先―― 「えっと……助けてくれて」 「おい、お前。金を出せ」  はい? カツアゲ?  え、もしかして、この人も悪い人? 「おい、ぼさっとしてんじゃねえよ。助けてやった礼を寄越せって言ってんだよ」  な、なんなの、この男は。  たしかに助けて貰ったけど、普通いきなり金品を要求する? 「あ、あのぉ……わたくし、今持ちあわせが無くて……」 「チッ。文無しかよ……じゃあいい、これを貰っておいてやるよ」  銀髪の男の人は、わたしの金細工のネックレスを、ブチっと引き千切って懐に仕舞った。 「ちょっと!?」 「いいじゃないか、そんな首飾りぐらい。貴族さまなら、大したモンじゃねーだろ」  助けて貰ったから、ネックレスはいいとして……偶然だと思うけど、胸を触られちゃったよ……うぅ……  王子たちにすら触って貰ってないっていうのに。 「ま、まぁいいですわ……ところで貴方はいったい、どこの誰なんですの?」 「うん? 俺は【暁の盗賊団】元リーダーのロイ。別に覚えなくてもいい」  えええ!? この人も盗賊団の仲間だって言うのぉ!?
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!