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 あの頃を思い出して俯向(うつむ)くと、よりちゃんが俺を覗き込んだ。 「俺が居なくなった時、寂しかった?」 「うん……すっごく寂しかった」 「ごめんな」  そう言って俺の頭に手を乗せる。  振り払ったりはしない。子供だからそうするのではなく純粋な優しさだと素直に思えたから。 「引っ越しなら別によりちゃんは悪くない。仕方ないじゃん。それに、また会えたんだし」  よりちゃんは大学があるからこっちに帰ってきた。一人暮らしなんだから家族はまだ北海道なんだろう。  ──あれ?  じゃあ卒業したらまた北海道に戻る?  せっかく再会できて嬉しかったのに……? 「よりちゃん、また会えなくなるの……!?」  よりちゃんが目を見開いて俺を見た。 「なんで、そうなるんだよ?」  また言葉が足りなかったみたいだ。今度はよりちゃんにも分からなかったらしい。 「だって大学卒業したら、また北海道に帰るんじゃないの?」 「会ったばっかで、もうそんな先のこと不安がってんの?お前もしかして俺のこと大好き?」  面白がるような反応は完全に俺をからかっている。 「大好きだったよ!兄ちゃん達の中で俺みたいのに構ってくれたの、よりちゃんだけだった!いっつも優しくてよりちゃんといるの本当に楽しかった。ずっと一緒だと思ってたのに居なくなっていっぱい泣いたし──また会えてすごく嬉しかったのに、でも──」  でも、もう昔のよりちゃんじゃない。子供の頃いくら優しかったからって、今の俺に優しくしなきゃいけない理由はない。大きくなった俺が昔と同じようにいつまでも甘えているのも、よく考えたらおかしい。  だんだん冷静になってきて、よりちゃんをどんなに好きだったかを力説した自分が恥ずかしくなる。 「でも、なに?」  なのに落ち着いた声で続きをうながしてくる。  ……勢いで出た言葉だよ。もう訊かないで。  何も言えなくなった俺に、よりちゃんは昔と同じ顔で微笑(わら)った。 「……俺もあの頃から那月が大好きだよ。可愛くて、素直で、ヒヨコみたいに俺の後ろばっか着いて回ってさ。構ってたのも俺の方が一緒に居たかったからだ。それに再会した今もお前は全然変わってないって思ってる」  自分は大人っぽくなって格好良くなって全然違う人みたいなくせに……でもやっぱりよりちゃんだ──。  もし引っ越さずにそのまま近所に住んでたら俺はずっとよりちゃんが大好きで、ずっと遊んでもらってたんだろう。 「けど俺、一つ引っ掛かってんだけど」  片方の眉を上げてよりちゃんが首を傾げる。 「全部過去形で言ったよな。今の俺は違う?  変わっちまった?」  俺はブンブンと頭を振った。 「ごめん、ちょっとそうかな……って一瞬だけ思った。でも見た感じは違う人みたいだけど、やっぱ変わってない。今も……優しい」  それを聞くとよりちゃんは、スッと身を乗り出してきた。 「今も俺のこと好き?」
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