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 よりちゃんの腕の中で抱きしめられている。  エアコンはこんなに効いてるのに、よりちゃんの体温がそれをかき消すくらいに熱い。それに自分の頬も熱が出たかと思うくらいに火照っている。 「那月……今付き合ってる奴いる?」  声がとても近くから聞こえた。この状況に唖然としていた俺はただただ横に首をふる。 「好きな人は?」  好きな人、と考えてドキッとした。よりちゃんが一番に浮かんだから。でもそれはこんな状況だからだ。  俺に好きな人はいない。まだ誰も好きになったことはない。  やっぱり同じように首をふる。 「あのさ……」  よりちゃんの手が後頭部をゆっくり一度撫でた。優しい手つきだった。 「俺と付き合ってみねえ?」  付き合う……よりちゃんと?  びっくりしてその場で上を向く。思った以上に顔が近かった。慌ててまた俯向いた。 「いきなり、なに……付き合うとか……意味分かんない……」  あまりにぶっきら棒な言葉が口をついてしまう。こんなひどい言い方をしたかったわけじゃない。でも驚きすぎて、どう返していいか分からなかった。 「だよなあ……俺もさ、実際お前と会ってみるまで確信は持てなかった。気のせいだって思いたかったし。でもはっきりした。お前が──那月が好きなんだ」  そう言うと俺を一度ぎゅうっと抱きしめて体を離した。 「だから付き合いたいって思った。  でも突然すぎるよな、こんなの」  そして照れたように微笑む。 「那月は軽い気持ちでいい。俺と付き合うのがどういうことか想像も付かないだろ。だから──嫌じゃなければ試しに付き合ってみねえ?」 「……試しに?」 「そう、期間決めて。夏休みで時間あるから二週間くらい。行動制限も付けるよ。気に入らなければ終了していいし俺もきちんと身を引く。那月にデメリットはないと思うけど、どう?」
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