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 体験版……みたいな感じ?  確かに『好き』も『付き合う』も具体的には全然分からない。俺はよりちゃんが嫌いじゃないんだし試してみるっていうのはアリな気がする。 「じゃあ、やってみようかな……」 「ああうん。そのノリで間違ってない。ゲーム感覚で良いんだけど──お前たぶん分かってないよな」  笑いながらよりちゃんが言う。 「俺にとってはお試し期間はチャンスなんだからな。どんどん売り込まれるぞ。覚悟しとけよ」 「うん……?」  売り込まれるってどういうことだ?  チラリと俺を見たよりちゃんが息を吐く。  ──笑顔が消えている。 「ちょっとい?」 「え?なに!?よりちゃんっ!!」  よりちゃんが俺をソファーに押し倒した。  そんなに何気ない口調ですることじゃない。  押し返そうとする手を取られて両方まとめて頭の上で封じられた。  よりちゃんが顔を首筋に埋め唇で吸い付くように押し当てる。舌を出して舐められると背筋がやたらとゾクゾクした。 「よりちゃん、より、ちゃんってば!  や、ちょっと!」  暴れたせいか動きを止めたよりちゃんが肘をついて俺を見下ろす。今度は笑いを噛み殺したような表情をしている。 「色気ゼロかよ。まあ仕方ねえか」  手の拘束を(ほど)かれた。  けれどよりちゃんはまだ俺の上から動こうとしない。 「那月はキスしたことある?」  この体勢に状況。よりちゃんの言葉は不穏で全然安心できない。 「なっ、ないよ。それがなに──」  よりちゃんが喉でククッと笑う。 「俺にキスされたら嫌?」 「したことないんだから、分かんないよ……」 「へえ?それ、してみて良いってこと?」  よりちゃんの顔が近づいてくる。  俺は恐ろしくてぎゅっと目を閉じる。  頬をそうっと、あたたかい手のひらが包んだ。 「嫌がることなんてしないから怖がるなよ  ──那月が好きなだけだから」  やわらかく唇が触れて、すぐに離れていく。  それがキスだと分かるのに少し時間が掛かった。そのくらいふわっと甘くて、ちっとも嫌な感じはしなかった。 「嫌だった?」 「……全然」  よりちゃんが体を起こし、俺も引っ張り起こしてくれる。 「これから二週間、那月はこうやって俺に口説かれます。状況分かった?」 「わか……分かった……」  初めてのキスにまだ頭がぼーっとしている。 「じゃあ軽いキスまでOKで二週間限定。  体験版の恋人な」 「体験版で、キスまでするって……どうなの……」 「逆だろ。仮にも付き合うんだからキス位しなくてどうすんだよ。ただの友達だろ、それじゃ」
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