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 暑い。とにかく暑い日だった。  八月に入ったばかりの夏休み。  自由を満喫するためにフラフラと午前中に家を出たが、帰り時にちょうど太陽が真上に来る時間になってしまった。考えなしの時間配分に自分を軽く呪う。  熱されたアスファルトが鉄板のようになっている。自転車のタイヤがくっついて溶けそうだ。  家まではあと少し。それでも我慢の限界だった。一秒でも早く涼みたい。  俺は吸い込まれるように目の前のコンビニに入る。自動ドアが開いて、灼熱と冷房の空気がムワッと混ざり合う。足早に店内に入り込む。  涼しー。これ天国だー。  もうしばらく外に出たくない。俺は本棚に回り込んで適当なマンガ雑誌を手に取った。  これを読み切るまで帰らない、そう決めた。  俺の他に若い男が立ち読みしている。随分背が高い。チラリと横目で見られたが気にせず並んで読み始めた。 「あら、那月(なつき)ちゃーん。こんにちわぁ。今日は特に暑いねえー」  バックヤードから出てきたおばちゃんに声をかけられる。家から一番近いコンビニだけに、ここのパートさんには顔見知りが多い。 「こんちわー。  暑いからつい涼みに来ちゃったー」  いまのも小学校の同級生のお母さんだ。  挨拶をして目を戻す。 「立石那月(たていしなつき)?」  隣にいた見知らぬ男にフルネームを呼ばれた。  何?誰?  顔を上げると、男は俺越しに何かを透かして見るような目つきをした。 「……那月?」  もう一度名前を呼ばれたが、見覚えはない。  俺が返事をしない……というか出来ないでいると俺の目をじっと見て言う。 「俺、久坂依澄(くさかよりずみ)。  分かんねえかな」 「久坂……」  その響きは聞いたことがあるものだ。  でも──思い出せない。  俺が眉間にしわを寄せていると男は笑った。  鼻にシワを寄せてほころぶ表情(かお)は、どこかで──。 「那月は、よりちゃんて呼んでたな俺のこと」 『こっちおいで那月。一緒に遊ぼう』 『よりちゃん!あそぶ!いっしょにあそぶ!』  頭の中で声が聞こえて記憶が弾けた。
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