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「大学入学に合わせて三月に一人でこっちに戻って来たんだ」
家の鍵を開けながら、よりちゃんが言う。
一人で?戻って来た?
俺が首をかしげている間に、部屋に入ってエアコンをつけている。
一人暮らしの部屋が珍しくて俺は玄関から室内を眺めた。
ロフトのある部屋なんて初めて見た。
ワンルームだが広々としている。物が少なく綺麗に片付いているせいだろうか。
「どうした?入ってこいよ」
いつまでも玄関から動かない俺に声が掛かった。
「あ、うん──おじゃまします」
靴を揃えて部屋に上がる。
「そこに座ってな」
よりちゃんは冷蔵庫からお茶のペットボトルを出しながらソファーを指す。
壁際に薄くて大きなテレビがあり、その前に低いテーブル。テレビを向いてソファーが置いてある。タンスや棚は見当たらなかった。壁にある扉の中が収納だろうと想像する。
すごく、さっぱりしたインテリアだった。
夏休みの間に俺の部屋もこんな風に模様替えしよう──と密かに決意する。
「よりちゃんすごい。こんな部屋で一人暮らしって、カッコイイ!」
コップを二つテーブルに置いたよりちゃんが隣に座り足を組む。そしてやけにニンマリした笑顔で俺を見た。
「それ、
俺と部屋とどっちが格好良いって意味?」
「え?」
思ってもみなかった所を尋ねられた。
「ええっと、両方?」
「あはは、かっわいい」
「子供扱いすんなよ」
正解とでも言うように頭をわしわし撫でてくるので手の甲で払いのける。
「してねえよ?
してないから触ってんだけどな」
どう見たって子供扱いだ。親戚のおっちゃんみたいじゃんか。
自分だってそこまで大人ではないくせに。
「ねえ、よりちゃん。なんで急に居なくなったんだよ」
そっちがそうなら俺だっておっちゃんにするみたいに聞き流してやる。
そう思って無関係の話題を振った。
「俺が中学に上がる時に親父の転勤で北海道に引っ越したから。那月にもちゃんと言ったぜ。分かってなかったか忘れてんだろ」
「そうだったの?なんにも覚えてないや」
よりちゃんの言う通り、引っ越しの意味自体をよく分かっていなかったのかもしれない。覚えているのは、すごく寂しくて悲しかった気持ちだけだ。
気付くといつもよりちゃんを探していた。
そして居ないと分かって落ち込んだ。
見えているのに毎回落とし穴を踏んでは嵌まっているような気分だった。
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