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また人が落ちた。
影が窓の外を上から下に移動し、しばらく後にドサリと重い物が落ちる音が響いた。
悲鳴を上げることも叶わずに凍りつく者。
その場にヘタリ込む者。
忍はーー
窓に飛びつき、窓のクレセント錠を上げてサッシを開き、階下を覗き込んでいた。
頭から飛び降りたのだろう。薄いグレーのコンクリートで覆われた地面には、頭蓋骨が砕けて血と脳漿が開いた花のように飛び散り、その中央に本人が横たわっていた。
飛び降りたのは女子生徒だった。うつ伏せに倒れているから、その表情まで覗くことは出来ない。
仕方なく忍は飛鼠を飛ばして彼女の表情を覗きみた。
血溜まりから離れた位置に着地した飛鼠が送ってきた視界に映っていた彼女は、口元に笑みを浮かべていた。
頭から落ちたにしては妙な屍体だった。顔に傷はなく、墜死の傷は頭頂部から後頭部かけて頭蓋骨が陥没するように広がっていた。まるで表情をしっかりと見せるために顔を守ったかのように……。
ーーどう考えてもおかしい……。
頭頂部から後頭部にかけて頭蓋骨が陥没しているのなら、遺体は仰向けでなければならない。
つまり、遺体は誰かが何らかの手を加えてうつ伏せにした事になる。落下して忍たち学生が窓を開けるまでのわずかな時間の間に……。
もちろん、そんな事を人間の手で行う事は不可能だ。だが、魔術師ならどうか? 人体の構造力学を無視して、あらかじめ魔術にて倒れる形まで指定する事は可能だ。
儀式を行っているにしては雑すぎる気がした。
だが、ただ単に生贄を捧げる事が目的であれば、こんな雑な殺し方もあり得るのかもしれない。それにしては、なぜ落下後にうつ伏せにしたのかが分からない。
「落ちた人は……無事なの?」
後ろから美奈が声をかけてきたため、忍はハッと我に返り、身を乗り出していた窓から慌てて身体を引っ込めてサッシを閉めた。
「いや、多分……亡くなってると思う。見ない方がいい」
美奈たちは恐ろしげな顔をして忍と窓に行き来するように何度か視線を彷徨わせたが恐怖が勝ったのか、コクコクと繰り返し頷いて自分の席に戻っていった。
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