ある朝のナツミ

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【これは、SF系の青春ショートショートです】  202X年……梅雨あけ後の、ある朝……  高校3年生のナツミは、いつものように寝坊したため、両親が出勤してからの食事となった。  いつものように、苺ジャムをトッピングしたトーストをペロリーと食べてから、冷えたカフェラテを飲み、自宅を後にした。  木立の陰から、ひょいっと歩道に出た瞬間、真っ白な矢が全身に刺さったような気がして、 「きょうも暑くなりそう……」  太陽は、日の出を少し過ぎると、めいっぱいの熱量を、人々の頭上に降りそそぐ。  街は昼を待たず、ふっとう寸前のヤカン同然……と 言いたい心境だった。 やがて、それまであった影が消える頃には、この夏がいつ終わるのか……? という思いにも疲れ、誰かとの会話も、かげろうのように揺れながら、その内容自体をむなしく失っていくように思えた。  ナツミもまた希望を忘れ、未来も見えない放浪者になっていくような恐怖を覚えつつあった。  そんなナツミはハンカチで首や(ひたい)の汗を拭き、次の角を曲がれば、もうJR駅が見えるという場面で足を止めた。  ふと、胸ポケットに手をやる。 「無いー!」  カバンの中も探しまくった。 「無い。どこにも。忘れたんだ。私のバカ。遅刻しちゃうのに……」  通常なら、えーい! と思い切って、駅へと向かうだろう。  が、ナツミは、えーい! と向きを変えるて、自宅に向かって駆け出した。 彼女が、それほど大切にしている物とは…… 『AI・パフューム・プレーヤー』  つまり、周りの臭いをカットして、その機器が発生させた単独の香りのみを楽しむことが出来るという商品だ。  実はナツミは、臭いに関して特異なほど敏感な体質のため、外室時には、このような特殊なアイテムが必要不可欠だった。  だから彼女にとっては、スマホ並に大事な宝物で、学校に遅刻しても取りに帰る必要があったのだった。
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