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灰色の瞳
私の目は使い物にならない。
ただの濁った水晶体は表面に映したものを脳味噌に投影してくれるわけでもない。
しかし常に真っ暗な世界に身を置く恐怖はない。
既に心が慣れてしまったから。
私の目がこうなったのは、1年前。
事故で両目の視力を失って悲観して泣き喚いたりはしなかった。
それは静かで深い絶望の中で、恐怖のあまり声が出なかっただけのこと。
できるだけ早く死んでしまおう、そう決めただけ。
事故で失ったのは視力だけじゃない。
両親と妹を失ってしまった。
親しい人もいない、色彩も何もかも失った世界。
そんな地獄になんの意味を見い出せばいいのか。
……幸い、私には両親が先祖から受け継いだ屋敷が遺された。
そこでひとりぼっちで暮らす。
正確にはお手伝いさんが通いで来てくれたけど、彼女は必要以外のことはあまり喋らない。
まぁお喋りで口さがない女の人って、好きじゃないから良いのだけど。
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