Ⅰ・月夜の出逢い

1/10
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

Ⅰ・月夜の出逢い

「自分を変えたい」っていう人,この世の中にはけっこういるよね?でも,方法が分からなくて,みんな(あきら)めてるんじゃない? そういう時は,魔法の力に(たよ)るのも悪くないと思うよ。 ……そう,このあたし,武丸(たけまる)カナみたいに。 ――それは,元号が「令和(れいわ)」に変わって間もない五月(なか)ばのこと。 「じゃ,中間テストの結果を返しまーす。各自,テストを振り返って反省点をレポートにまとめるように」 この日は,こないだ終わった一学期の中間テストの,全教科の点数と学年での順位がプリントとして渡される日だった。 担任の野間口(のまぐち)やよい先生が,クラスの一人ひとりにそれを手渡していく。あたしの順番は,男女合わせて三十人のちょうど真ん中くらい。 「……次,武丸さん」 「は,ハイっ!」 あたしは先生から受け取った用紙をチラッと見て,小さくため息をついた。 ……うん,悪くはない。悪くはないんだけど……,よくもない,と思う。 国語と英語は,まあまあいい。これでも文芸部員の(はし)くれだから。でも,他の教科が……,何だかなあ。特に数学が。 「お前,そんなに悪かったん?」 (とな)りの席から,なぜか関西弁っぽくからかってきたのは中須(なかす)駿(カケル)。あたしの小学校からのクラスメイトで,幼なじみで,……実は好きな人,だったりする。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!