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暫く行くと、道の脇に真新しいお堂が見え始めた。
良介はグンと更にスピードを落として、徐行する。
お堂はどんどん近付く。
お堂のある付近は、木がなくなり、お堂の直ぐ後は崖だった。
途中までは木で分からないが、道の左側(のぼりから見て)は、切り立った高い崖になっていた。崖の向こうは、暗い闇で何も見えない。
「あれだよ。あれ、あのお堂の場所がそうだ」
良介は言う。
「……早く、行こうよ」
早苗は嫌そうに言うが
怯える早苗の姿は目に入っているが、良介は聞こうとしない。
むしろ、狙い通りにいっているので、しめしめとさえ思って居た。
徐行をさらに遅くする。車は止まりそうだ。
車がお堂を通り過ぎる瞬間、中をヘッドライトが照らした。
その中には、同じく真新しい地蔵が立って、こちらを見ていた。
「何も無かったな?」
良介は嬉しそうにさらっと言って、また車のスピードを上げた。
大体自分の思い通りに、ここまではいった。
「……。」
早苗は不貞腐れたように顔を歪めて、黙って窓の外を見ている。
「なんだよ?」
早苗の想定とは違う反応に、少し困惑する。
怖ーいとか、怖かったぁなどと、抱きついたりして来る事を想像して居た。
当然だ、吊り橋効果は意味がないのだから。
「……。」
何となく車内に微妙な空気が流れて、横目で早苗を見て居た良介も、目線を道の先に向ける。
がーー
ハッ!? として、一瞬息が止まる。
道の脇を子供が1人歩いている。
小さな少年だ。
上に向かい歩いている。
隣を見ると
「……!?」
そっぽを向いていた早苗も、自分と同じ方向を見て、驚いたような、恐怖しているような、顔をしている。
そのまま、車は少年の脇を通り過ぎた。
早苗は少年の方をふり向くような事は無かったが、バックミラー越しに、後ろに過ぎ去る少年を目線だけで確認していた。こっちが気付いている事を、少年に悟られたら、なんだか不味い気がしたのだ。
雨と闇の所為で、少年の顔までは見えなかった。
「見た?」
早苗が訊く。
ーーやはり、早苗にも見えて居た!?
「……ああ。」
良介が答えた。
そして、
「どんなだった? 俺が見たのは、小学生くらいの男の子だ! 黄色いリュック背負って、登山とかハイキングみたいな格好だった!?」
早苗は本当に全く同じ物を見ていたのか、確認の為に聞いた。
「……。」
早苗は青い顔をして黙っていた。
その様子から、大体の事は想像出来たがーー
「どうなんだよ! お前が見たのは!?」
恐怖から、良介の声が荒くなる。
「同じだよ!」
早苗は答える。
「……。見ちまったか。やっぱり噂は本当だったな?」
良介の声が微かに震えている。
見たいと思っていても、実際に見てしまうと、見なければ良かったと後悔するのは人の常だ。
「でも、バックミラーに写ってたよ?」
早苗が唐突に言った。
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