雨の中の子供達

2/7
前へ
/7ページ
次へ
暫く行くと、道の脇に真新しいお堂が見え始めた。 良介はグンと更にスピードを落として、徐行する。 お堂はどんどん近付く。 お堂のある付近は、木がなくなり、お堂の直ぐ後は崖だった。 途中までは木で分からないが、道の左側(のぼりから見て)は、切り立った高い崖になっていた。崖の向こうは、暗い闇で何も見えない。 「あれだよ。あれ、あのお堂の場所がそうだ」 良介は言う。 「……早く、行こうよ」 早苗は嫌そうに言うが 怯える早苗の姿は目に入っているが、良介は聞こうとしない。 むしろ、狙い通りにいっているので、しめしめとさえ思って居た。 徐行をさらに遅くする。車は止まりそうだ。 車がお堂を通り過ぎる瞬間、中をヘッドライトが照らした。 その中には、同じく真新しい地蔵が立って、こちらを見ていた。 「何も無かったな?」 良介は嬉しそうにさらっと言って、また車のスピードを上げた。 大体自分の思い通りに、ここまではいった。 「……。」 早苗は不貞腐れたように顔を歪めて、黙って窓の外を見ている。 「なんだよ?」 早苗の想定とは違う反応に、少し困惑する。 怖ーいとか、怖かったぁなどと、抱きついたりして来る事を想像して居た。 当然だ、吊り橋効果は意味がないのだから。 「……。」 何となく車内に微妙な空気が流れて、横目で早苗を見て居た良介も、目線を道の先に向ける。 がーー ハッ!? として、一瞬息が止まる。 道の脇を子供が1人歩いている。 小さな少年だ。 上に向かい歩いている。 隣を見ると 「……!?」 そっぽを向いていた早苗も、自分と同じ方向を見て、驚いたような、恐怖しているような、顔をしている。 そのまま、車は少年の脇を通り過ぎた。 早苗は少年の方をふり向くような事は無かったが、バックミラー越しに、後ろに過ぎ去る少年を目線だけで確認していた。こっちが気付いている事を、少年に悟られたら、なんだか不味い気がしたのだ。 雨と闇の所為で、少年の顔までは見えなかった。 「見た?」 早苗が訊く。 ーーやはり、早苗にも見えて居た!? 「……ああ。」 良介が答えた。 そして、 「どんなだった? 俺が見たのは、小学生くらいの男の子だ! 黄色いリュック背負って、登山とかハイキングみたいな格好だった!?」 早苗は本当に全く同じ物を見ていたのか、確認の為に聞いた。 「……。」 早苗は青い顔をして黙っていた。 その様子から、大体の事は想像出来たがーー 「どうなんだよ! お前が見たのは!?」 恐怖から、良介の声が荒くなる。 「同じだよ!」 早苗は答える。 「……。見ちまったか。やっぱり噂は本当だったな?」 良介の声が微かに震えている。 見たいと思っていても、実際に見てしまうと、見なければ良かったと後悔するのは人の常だ。 「でも、バックミラーに写ってたよ?」 早苗が唐突に言った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加