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「え?」
「そう言うのは、普通は映らないんじゃ無いの?」
「それはドラキュラだろ? 幽霊は鏡に映る。タクシー怪談とかでも、バックミラーにいつの間にか女がーー、とかは定番だろ?」
「ーーそうか。でも、本当の男の子だったら?」
「え?」
「人間のさーー。道に迷ったりとか?」
「ーーにしたって、普通は道に沿って下に行くだろう? 山で遭難し掛けて道まで出たとしても、下山して麓を目指すだろ? あの子、上に登ってたぜ?」
「上に誰かが待ってると思ってるとか? 上に登山客用の駐車場あるし。ーーもう1回、確かめよう」
「えっ!?」
早苗の提案に驚く。
早苗の言うように100mほど先の頂上には、登山客用に展望台を兼ねた駐車場が在った。
「また居たら私が声を掛ける」
「……マジかよ。」
良介は此処に来て尻込みする。
子供を産むからなのか、それとも元来備わった女の資質か、何かあった時は女の方が度胸がある。男は勢いばかりで、いざとなると情けない。
だが、確かに本当に遭難者なら確かに見過ごせない。
6月であっても、雨の中で長時間居れば低体温症を引き起こす可能性もあるだろう。見過ごして、死ねれでもしたら、これからの人生ずっと寝付きが悪くなりそうだ。
どうせ帰るのには、また来た道を帰らなくては行けない。
「分かった。取り敢えず、見に行こう」
良介は途中で車をUターンさせる。
降り始めるとーー、
「居たよっ!」
早苗は叫ぶように言う。
直ぐに、あの少年は居た。
あのお堂を少し過ぎた辺りだ。
今度は下に向かい歩いている。
やはり、途中で下に向かわなくていけない事に気付いたのだろうか?
先ほどと同じ側の道を下に向かい歩いていた。
だから、下って来た良介達とは反対側になる。
ーー今度はちゃんと見る。
確かに、人間だと思って見れば、道に迷ったかなにかした子供だ。
やはりただの迷子か? 今の世の中、想定出来ない事は普通にある。
「ああ、やっぱり居た! 人間だよ!! 早く車に乗せてあげなきゃ!!」
良介の気持ちを後押しするように、早苗が言う。
「……ああ」
居たけど、やっぱり本当に本当の人間のかよ?
良介は内心そう思ったが、早苗の頭はもう人命救助に切りに変わっている。
ーー口には出せなかった。
仕方なく、少年の少し先で、車を止める。
車を止めるなり、直ぐに早苗は車から飛び出した。
「おいっ!」
良介が止めるが、既に早苗は少年の方に向かい、土砂降りの中を走っていた。
「仕方ねえな……。」
良介が車をバックさせた時ーー。
「きゃあああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!! 良介ェーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!」
早苗の悲鳴が聞こえる。
良介が悲鳴のする方向を見ると、どこから湧いて出たのか沢山の子供が早苗を囲み、蟻が巨大な餌を運ぶように、胴上げのように担ぎ上げて歩き始めていた。
「おいっ! なんだよっ!!! ーー早苗ッ!!!」
と、良介は車から出ようとしたが
子供達の半数以上が向きを変え、今度は良介の車に向かって歩き出した。
皆、ぐっしょり濡れ青白い顔をしている。
生きている人間じゃない!?
「ーーヒィッ!!」
良介は恐怖で、思わず咄嗟に車を急発進させて、麓に向かい走り出した。
早苗は担がれて、どんどん道の向こうの崖に向かう。
その様子がバックミラー越しに見えた。
どんどん小さくなる早苗の悲鳴。自分の名前を呼んでいた。
戻らねばと思うが、怖くて出来なかった。
最後に早苗の姿がバックミラー越しに見えた。
仰向けで、中を仰ぐように、必死に両手を動かしていた。
ーーそれは、鬼落とし谷での出来事だった。
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