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雨の中の子供達
始まりーー。
6月24日、未明。
「ねえ、雨が強いよ? 危ないよ?」
早苗は怯えた顔で言う。
フロントガラスを打ち付ける強い雨で、前さえ良く見えない。
「平気だよ。車に乗ってんだし。降りて回る訳じゃ無い」
良介は笑って言った。
そんな良介に
「もうなんで雨の日に、心霊スポットに行かなきゃ行けないのよっ!」
早苗は怒って言ったが
「仕方ねえじゃん。雨の日しか出ないんだから?」
と良介は相変わらず笑って返す。
最近、この辺りに幽霊の目撃例が多発していた。
……それは、子供の霊だという。
地元の会社員木田良介(21)と、その彼女川村早苗(18)はN県M山山中を啓介の自家用で走っていた。
田舎でやる事も無く、暇を持て余した結果、最近地元で話題になってる心霊スポットに啓介の提案で向かう事にしたのだ。
付き合い出して1年近く、最近何となくデートにもマンネリ感が漂い出した。少し前までなら一緒に居るだけで、若い2人は楽しかったのに、最近は2人で居ても喋らない時間が増えた。
啓介にとってはそれは言いようの無い焦りだったが、実は早苗には2人の間に信頼感が生まれた現れであった。あえて気を使って話題を探す必要が無くなったのだ。そして、もう無理に気を引くような真似をしなくとも、嫌われる事がないという、安心感でもあった。ーーそう感じていた。
良介の狙いは、所謂吊り効果(理論)であった。
吊り橋効果とはーー。吊り橋のような恐怖を感じる場所で異性に会うと、恐怖への興奮状態が恋愛感情と錯覚されるという理論ではあるがーー。
現在はこの理論は否定されている。
そもそも、もう2人は付き合っているのだ。
この時点で既に今回のデートは、良介の選択ミスなのだが。ただ、デートの余興、思い出作り、という点においては心霊スポット巡りは若者のイベントの定番とも言えるので、よほど彼女がお化け嫌いで無い限りは、あながち間違った選択では無い。
当の早苗はというとーー。
好きでも嫌いでも無い、という感じだ。
というか、心霊スポットに行った経験も無い。
やった事があるのは、小学校の林間学校の時に、森の中をチームで回った肝試しくらいだ。ーーまあ森は、心霊スポットでもなんでも無かったが。
今回で嫌いになるかも知れない?
もしくは、意外に楽しくなって、癖になるかも? 知れない。
それは、小さな可能性ではあるがーー。
そんな感じだ。
がーー、
今日は雨が酷かった。
そちらの方が、事故を起こすのでは無いかと早苗には心配だった。
「そろそろ着くな?」
テンションが上がってるのが、目に見えて分かる良介。
車のスピードを落とす。
ダッシュボードに身を乗り出して、フロントガラスの向こうに目を見張る。
それにひきかえ
「……。」
早苗はやはり乗り気じゃない。
特に返す言葉も出ない。
その時ーー。
目の前に飛び込む光り!?
「キャアッ!?」
早苗は思わず悲鳴を上げる。
「ただのバイクだよ? こんな雨の中、峠を攻めにーー」
フロントガラスを打ち付ける雨に、バイクの灯りが乱反射したのだ。
こんな雨の中にバイクで走っているなんて、想像もして無かった事もあり、驚いた。
「……いや、多分アイツも俺らと同じだろう? こんな雨の日に来る何て……。物好きはどこにもいるな?」
良介の、どこにでも、の言葉の中には、自分は含まれて居なかったが(勿論狙いは、吊り橋効果なので)。
「……。」
早苗は自分もじゃ無いか? と不貞腐れた顔で思って居た。
そうこうしている内にーー。
「……おお、アレだ」
良介は期待に満ちた声で呟く。
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