4日目「必需品」

1/5
87人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ

4日目「必需品」

 休日の朝にしては珍しく、目覚ましを少し早めにセットして起きた。  昨日外に出たときに買った菓子パンを食べながら準備を済ませ、これまた休日には珍しく外に出る為に顔を作っていく。  そういえば莉緒ちゃんはメイクなんかしていなかったな。珍しい程に完成した顔だった。そんな人間が死ぬなんて勿体ない。なんて上の空で女子高生の顔面に嫉妬しながら、肌に色を載せていく。  生活力が無くてもメイクは出来る。周囲からの評価は基本的に顔から。言い換えれば顔を作らなければ生きていけない社会。だからこれは必須スキル。全く面倒な世の中。 「よし」  着替えも済ませ、適当に荷物をポシェットに詰め、声を出す。 「おまたせ」 「麻里さん計画性無さすぎですよ。あと五分でバス来ちゃいます」 「大丈夫、急いで階段下りれば間に合う」 「いつもこんなギリギリで家出てるんですね……」  慌てて靴を履き、彼女と共に部屋を出る。昨日とは打って変わって空は青い。昨日できた水溜まりが陽を反射してキラキラと輝いている。  部屋の鍵を閉め、廊下を歩き出す頃には薄らと汗が滲み始め、高い気温と湿度にうんざりする。  夏はどんな天気でも不快だから嫌いだ。 「麻里さん。早く」  階段を降り始める彼女が私に手を振る。  そんな彼女の後を追うように、私は廊下を走った。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!