第三章 傷だらけのロンリネス

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「違うなら、ありのままを話せばいい。それだけのことだ」 「それは僕を信用してくれてるってこと?」 「信用とか、そんな歯の浮くようなセリフを言わせるなよ。一応、四年も教師をやってるわけだから、子どものつく嘘なんてすぐにわかるんだよ」 「大人はそんなふうにものわかりのいいのを強調して子どもを小手先で操ろうとするんだ。でも実際はなにもわかってない。僕は無実を証明したいんじゃない。最初からそういう目で見るなと言ってるんだ」  心を閉ざしてしまったかのように伊央は冷たい目をしていた。  筧は眉間に皺を刻むが怒っているわけではなかった。四年以上の教師生活を見透かされたような気がした。  この学園は自由な校風で生徒の偏差値も高いせいか、これまで大きな問題は起きなかった。筧自身もこの学園の卒業生であり、多少の居心地のよさを感じながら、教師としての仕事を流れ作業にようにこなしてきたように思う。  生徒と仲よく和気あいあいと、困っていたら軽く手を差し伸べ、あとはなるべく生徒の自立心を尊重し、深入りしない。自立心の尊重というと聞こえはいいが、要は深くかかわって責任を負いたくないのだ。  筧はうまく言葉を返せない。十五歳の少年のほうがよっぽど世間を知っていて、人をよく見ている。 「まあまあ、雫石。筧先生も大変なんだよ。如月学園長に今日のことを報告するために俺たちの行動を把握しておく必要があるんだって」  遠峯は伊央の肩に手を置き、くだけたように言う。  伊央が少し離れたところに立っているめぐるに視線を移した。しばしふたりは見つめ合う。めぐるがやさしく頷くと、伊央はぽつりぽつりと話しはじめた。 「放課後、図書室に行く途中で煙草のにおいがしたんだ。誰かの服についたにおいが廊下に充満していたんだよ。そしたら、どこからともなくなにかが燃えているにおいがしてきて、気づいたら消火器を持ってゴミ置き場にいた」  図書室は中央棟の一階にある。伊央は図書室前の廊下で異変を感じた。煙草のにおいをさせた見覚えのある人物のうしろ姿を見て嫌な予感を覚えたのだ。
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