第一章 悲しみのエンパシー

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 M市は人口三十万人ほどの地方の中核市。市の中心には高速道路が通り、新幹線の駅もある。工業団地には有名メーカーの大きな工場がいくつも誘致され、中心市街地には多くの商業ビルがひしめき合う。冬は少し寒さが厳しいが、豪雪地域というわけではなく、住みやすい街といえる。  しかしそれだけのこと。都会でもなく、ド田舎でもない中途半端に開発された個性のない街。郊外の道沿いにチェーンストアやパチンコ屋、マンションが立ち並ぶ景色はここ数年代わり映えなく、観光スポットに乏しいこの街は魅力的という言葉にはほど遠かった。  そんな街に再びざわつく出来事が起ころうとしている。  誰かが人差し指でそれを実行した。今、この瞬間に──。 「あっ、まただ」  家族が寝静まった深夜、二階の自分の部屋で机に向かい、数学の問題を解いていたところだった。高比良(たかひら)めぐるは妙な感覚がして、シャーペンを走らせる手を止めた。
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