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そしてクリスマスイブイブの日曜がやってきた。
俺は灘さんと買い物に来ていた。
「チキンはどうしようかなあ。ケンタッキー?いや、せっかくだから揚げるか」
灘さんはぶつぶつ言いながら買い物籠を片手に鶏肉を見ている。
「……灘さん、料理できるんですか?」
「うん。料理は好きなんだ。女の子にいつも披露してるんだけど、その後よく振られるんだよな。なんでだろう?俺は女の子はそこにいてくれるだけでいいんだけど」
彼はふと悲しそうな顔をしてそう言う。
「女の子のことはよくわからないんですけど、やっぱり女の子は自分より料理がうまい人が彼氏だと引くんじゃないんですか?」
「そうかな?そうか、だから振られたのか」
灘さんはがっくしと肩を落とすとその場に座り込む。
「毎年、クリスマス近くになると振られるんだよな。だから、大概俺は家でクリスマスパーティーを開く。今年は王さんが女の子は嫌だっていうか、4人だけだけど。いつもは女の子も呼ぶんだ。来てくれる女の子は喜んでいたんだけど、彼氏となると違うのか」
「……多分」
灘さんは俺の言葉で、しゃがみこんだまま動かなくなる。
「灘さーん。大丈夫ですか?」
俺はちょっと心配になり、座り込んだ彼の肩を叩いた。
「……来年は頑張ろう」
彼は力なくそう言うと立ち上がる。そしてふらふらと歩き始め、俺は自分が言ったことを後悔した。
「よっし。こんなもんかな?忠史、他になんか買うものある?」
しかし立ち直りが早い灘さん、買い物が終わりに近づくと元の元気を取り戻していた。
俺は彼に差し出された買い物リスト見る。
そしてあることに気がついた。
「……クリスマスケーキ。ケーキは買わないんですか?」
「ゲッ、そうだった。予約しなきゃな」
そうして俺達はケーキ屋を巡る。しかし予約は打ち切られており、当日頼みとなった。
「当日、買えるかなあ。仕事終わってからだから。まあ。5時には終わらせるつもりだけど」
「……最悪、ケーキなしでもいいじゃないですか?」
「いや、ケーキは絶対にいる!」
買い物袋を両手に灘さんは唸る。
その様子が可哀そうで、俺はあることを思いついた。
「……俺が作りましょうか?」
「え、忠史作れるの?」
「はあ。まあ」
俺も実は料理が得意だ。
お菓子はその中でもっとも作るのが好きで、自分の作ったお菓子を彼氏にあげると翌日は大概振られる。
俺の老け顔とお菓子作りのギャップが大きすぎて引かれるらしい。
いや、なんだ。灘さんと一緒か。
その考えにいたり、俺は思わず笑ってしまった。
灘さんとは案外共通点が多い。
失恋の話とかするといい勝負をしそうだ。
「だったら、よろしく!手作りの方が美味しそうだ」
灘さんのその一言で、俺はケーキ作りを担当することになり、ケーキを作るための道具は今日中に灘さんの家に運びこむことになった。
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