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4 一張羅と男爵の屋敷
立派な石造りの門を通ってから広い庭を抜け、ようやく辿り着いた屋敷に入ると、待っていたのはやはりどこまでも続くかのように長い廊下だった。家をここまで大きくする意味はあるのだろうかとジェレミーは疑問に思ったが、貴族には貴族の考えや文化があるのだろうとカツカツと靴音がよく響く大理石を歩きながら勝手に納得していた。
そんなことよりも、二人を先導する使用人の目を盗み、ガリューに耳打ちをする。
「なあ、本当にこれがお前の持ってる最高の服なのか?」
ガリューは使用人とジェレミーの格好を見比べ、苦笑とともに頷いた。
彼らは今、この町で最も権力を持っている貴族、エグバード男爵の屋敷に招待されていた。以前ガリューが自分を専属絵師にと勧誘している貴族がいると話していた男だ。春の陽気が心地よい日で、二人はそれぞれ湖畔に棲息する植物のデッサンをしているところだった。
「ヨエル=ガリュー殿の館はこちらかな?」
突然現れた男は不躾にも名乗りもせず、馬上から尋ねた。たっぷりと白髭を蓄えたその男は上品な身なりに似つかわしくない鋭い目つきをしていた。おそらく自分たちの身なりを見て使用人や召使いであると思ったのだろう。ジェレミーは一瞬不快感に顔をしかめたが、自分も初めてここを訪れた際に同じ勘違いをしていたことを思い出し、口角を上げた。
「彼がヨエル=ガリューだが?」
湖畔に浮かぶ睡蓮の花をデッサンしていたガリューは手を止めて立ち上がり、ジェレミーを指してそう言った。当の本人のジェレミーは彼の行動を理解できず、ガリューと馬上の男の間で視線を三往復させた。
「それは大層なご無礼を。私はエグバード家に仕える執事で、カタリンと申します。以後お見知り置きを」
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