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「僕は君のそういうところに惹かれたのかもしれない。君のその情熱というか、執念深いところに。それは僕があまり持ち合わせていない感情だからさ。そういうものを君から学ぼうとしたのかもしれない」
「そんなもの学んでどうするんだ?」
ジェレミーは怪訝な表情で芋を口に運んだ。
「ほら、僕は絵が上手だろ?」
ガリューが両手を広げる。たしかにあちらこちらに無造作に置かれた絵の数々はジェレミーの腕前を凌駕する代物だった。それでも、「それを自分で言うか?」とジェレミーは鼻を鳴らした。
「でも僕の絵は上手なだけなんだよ。それ以上じゃない。小手先の技術を超えたところに行くにはなにか他のものが必要なんだ」
「それを俺から学ぼうとしてるってことか?」
「そう、君自身の技術的はまだまだ未熟だけど、君の絵は充分魅力的だ。それは多分君の熱意や情熱から来ていると僕は思う。僕には足りないものだ」
ガリューは器に残った最後の一口をすすると暖炉に薪をくべた。パチパチと小気味のいい音がする静かな夜だった。
食事を終えたジェレミーは暖炉に両手をかざして暖めてから自らのキャンバスに向かった。最近よくモチーフにするのは暖炉の前で居眠りをするガリューの姿だ。デッサンの段階で見咎められたが、すぐに諦めたのか今ではなにも言ってこない。それどころか彼が密かに自分をモチーフになにか描いているのをジェレミーは知っていた。気付かれていないと思っているのかもしれないが、時折感じる視線に気付かないはど鈍感ではなかった。
早いものでここを訪れてから半年が経つ。当初の目的であった青色の秘密は依然としてなにもわからない。それどころかこの半年彼があの色を使ってるのすら見たことがなかった。あえて隠しているのか、単純に使う予定がなかったのか。おそらく聞いてみたところではぐらかされるだけなので、機会があれば本格的に家捜しをしようとジェレミーは企んでいた。
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