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その顔はもういつも通りのにこにこした表情に戻っていた。
「この話をする前にお茶を入れてきてもいいかな? 多分長い話になるんだ」
ジェレミーは頷く。立ち上がったガリューに「君もいるかい?」と聞かれもう一度頷いた。
ガリューが戻るのを待つ間、ジェレミーは全身の力が抜けるような感覚の襲われていた。目の前のパンに口をつけようとして皿に戻す。ガリューが起きるのを待っている間以上に食欲が湧かなかった。「百年前」という単語が頭の中をぐるぐると回る。どういう話になるのか想像もつかなかったが、ガリューの態度を見る限りではあまり良い話ではなさそうだった。
お待たせ、と盆にカップを二つ乗せたガリューが戻ってきた。ジェレミーがそれを受け取り、自分のカップに砂糖を入れ始める。
「初めて君に会った日のことを思い出したよ」
「ああ、俺の態度が変わったのが気に入らなかったんだろ? 俺もお前の上から目線な態度が癪に障ってたから気にするな」
「酷いね。それもだけど、君がその風貌から想像できないような甘党だからさ」
言われてジェレミーはカップに目を落とす。琥珀色に輝く紅茶は甘くしてこそ美味しいものだと思っていた。なにも入れずに美味そうに飲むガリューの方が理解できない。
「今度砂糖を入れずに飲んでみよう。お前も目一杯甘くして飲んでみるといい」
「今度があればね」
ガリューは今まで見たこともない真剣な顔になった。まるで別人のような口調にジェレミーは面食らう。
「この話を聞いたらもう君は僕と一緒には居てくれないかもしれない」
ガリューはそう言って砂糖の入っていない紅茶をすすった。
「まず、僕は人間じゃない。正確にはこの世界に住む君たちとは別の生き物だ。百五十年ほど前にこの世界へやってきた」
ジェレミーは彼の言葉を理解しようと出てきた単語を繰り返し呟いた。
「まあ、この話を君たちが理解できるようになるのはもう少し先だな。簡単に言うと僕は君たちよりも多くのことを知っているし、多くのことができる。例えば空を飛んだり、遠く離れた人と話をしたり、火を使わずに夜を昼間のように明るくすることだってできる」
ほう、とジェレミーはまるで他人事のような感嘆の声をあげた。彼はおいそれと話を鵜呑みにすることができなかった。あまりにも荒唐無稽な話でまたガリューにからかわれているのではないかと警戒していた。
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