3 林檎の木とガリューの秘密

7/8
前へ
/47ページ
次へ
「なにかその証拠を見せてくれよ」  腕組みをし、椅子に深く座り直す。「そうだな」と呟き、腕組みしながらガリューは自室に向かい、すぐに戻ってきた。 「ほとんどの技術はこの世界では使えないし、長い年月の中で失われてしまった。だから今君に見せられるのはこのくらいしかない」  ガリューが持ってきた筒のようなもの、それを彼が弄ると眩いくらいの灯りがついた。見たこともないような直線的な光を当てられ、ジェレミーは驚きのあまり椅子から転げ落ちた。追い討ちをかけるようにガリューが小枝のようなものを弄ると一瞬にして小さな炎が上がった。まるで魔術のような現象に見せるジェレミーの反応が可笑しかったのか、ガリューは屈託無く笑った。 「あとはこの水中でも息ができる装置くらいかな」  鉄の塊の中には空気が入っていて、そこから管を通して息ができるらしい。 「まだ使えるとは僕も驚いたよ。こんな感じで僕は君たちよりも進んだ文明からやってきた。君たちがこういったものを当たり前に使うようになるにはあと数百年かかるだろう」 「絵の技術もそのせいか?」  ジェレミーは倒れ椅子を起こし、座り直した。 「いや、それは僕の百年にも及ぶ研鑽だ。そもそも僕が絵を描き始めたのはこっちにきてからだしね」 「絵に関してもすごい技術があるのか?」 「絵……と言うわけじゃないけど、なんていうか風景をそのまま切り取るような道具はある。見たものをそのまま紙に保存できるんだ。それも一瞬でね」  ジェレミーはその道具を想像するためにしばしぼんやりと中空を見上げ、そしてなにかに気付いたように目を見開いた。 「そんなものがあるならもう絵なんていらないじゃないか。お前が元いたところでは絵描きはいなかったのか?」 「それとこれとは話が別だ。昨日僕が話した通り、絵に必要なのは技術だけじゃない。風景をそのまま紙に焼き付けたところでなんの情熱もこもっていないのであればそれでは人の心は打てないんだよ」  ジェレミーは納得したように「そうか」とだけ呟いた。ジェレミーがカップを口元に運ぶ。沈黙の中紅茶をすする音だけが部屋に響いた。  正直、ガリューの話にはジェレミーが理解できない部分も多い。実際に目にした光や炎もなにか手品のようなものの可能性だってある。だが、話が全て真実だと証明することは彼の言う通り難しいことなのだろう。だからジェレミーはガリューの生い立ちについては考えないことにした。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加