醒めない

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 須和くんはやっぱり上の空で、手の中のシャープペンの先っぽをじっと見つめている。 その先に誰かの面影でもあるような顔をして。  目元までの少し癖のある黒髪が、吹き込んでくる春の風にそよいでいる。  伏せた黒い瞳に窓から差し込む光がちらちらと揺れて、見惚れるくらいに綺麗だった。  須和くん。  他に好きな人がいるってずっと前から知ってたよ。叶うならそんな顔で、わたしのことも見てほしかった。  いつまでもずっと、醒めない夢の中にいたいのに。 「どうしたの?」  ようやく視線に気づいた須和くんが、気遣わしげに小首を傾げる。 「なんでもないよ」  なんでもない。もう一度、自分に言い聞かせるように呟く。 ゆらゆらと滲んでいく視界を隠すように手で覆うと、わたしは唇だけで微笑んでみせた。 〈終わり〉
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