醒めない

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 その日、珍しく待ち合わせに30分遅れて須和(すわ)くんはやってきた。  大学は春休みの真っ最中。図書館で一緒にゼミの課題をやる約束をしていた。 メールを送ったけど返事がこなくて、そわそわしていたわたしが最初に見たものは、泣きはらしたように赤く潤んだ須和くんの目。 「えっ…どうしたの? 目、真っ赤」 「ちょっといろいろあって。ごめんね、遅れて」  須和くんは言葉を濁すと、申し訳なさそうに少し癖のある黒髪を掻いている。  何があったの。  何が須和くんにそんな顔させたの。  込みあげてきた言葉たちを飲み込んで、わたしは心の底から心配そうな顔を作る。 「もしかして、泣いた?」 「あ。……うん」  須和くんは理由を口にしないまま、気まずそうに視線を落とす。  こんな昼間からハタチの大学生が泣くなんて、どういう状況なの。 「冷やさないと、あした目腫れちゃうよ。待ってて」  須和くんをその場に残すと、女子トイレに駆け込んでハンカチを水道の水で濡らした。  ふと鏡の中の自分と目が合った。いつもにこにこしてるって言われるけど、こちらをみつめ返すわたしにはそんな余裕はないように見える。    不穏な音を立てて鳴り響く心臓に、精一杯気づかないふりをした。
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