醒めない

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 軽く絞ったハンカチを持って、急いで須和くんのところに戻る。    須和くんは図書室の椅子に身体を沈めて、今やっと夢から醒めたような顔をしていた。  目の縁は赤く染まっているけれど、いつも眠そうな二重の瞳が光を灯したように熱っぽく揺れている。そんな顔を見るのは初めてだった。 「須和くん」 声をかけると、はっとした顔で須和くんはわたしを見上げた。 …完全にうわの空。 「大丈夫?」 「あ…ごめん。ぼーっとしてて」  苦笑いをする彼に、いつものように笑みを返すことができない。  わたしは須和くんのまぶたを冷やすことに集中する。 「冷やすから、ちょっと目つぶって」 「うん」 「少し上むいて」 「はい」  座ったまま素直に目を閉じて顎をあげる須和くんの顔に、思いがけず心臓がどきりと揺れた。  なんていうか、キスするときの顔みたいで。  …何を考えてるんだ、わたし。 「ハンカチのせるね。冷たいよ」 「…うん。ありがとう」  目隠しをするように、ひんやりと水気を含んだハンカチを須和くんの目元に乗せる。 「ほんとだ。冷たくて気持ちいい」  淡いピンクと白の花柄模様のハンカチを乗せたまま、須和くんの口の端がふっと持ち上がった。
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