醒めない

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 口角のあがった形のいい唇にどうしても目が吸い寄せられる。    自分でもおかしいってわかってる。 泣きはらした目の男の子を前に、こんな気持ちになるなんて。 わかっているのに、みるみるうちに速まっていく心臓の音。    大学は春休み真っ最中で人が少ない。図書館の奥まったこの席にいるのは、須和くんとわたしだけ。  もし。もしも今、この唇に触れたら。  わたしたちの関係を変えることができるのかな。    わたしは須和くんが好きで、須和くんもわたしのことが嫌いじゃない。 まだ付き合ってないの?って、わたしたちを知ってる友達みんなから言われるような、そんな関係。 わたしから壊しても、須和くんは許してくれるかな。  開け放たれた窓からそよそよとした春の風が吹き込んで、白いカーテンがふわりと大きく膨らんだ。 誰も見てない。今なら、誰も。  ――須和くん。  全身が心臓になったみたいにどきどきと脈打って、わたしはおそるおそる須和くんの唇に顔を寄せた。  あと、数センチ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加