10人が本棚に入れています
本棚に追加
口角のあがった形のいい唇にどうしても目が吸い寄せられる。
自分でもおかしいってわかってる。
泣きはらした目の男の子を前に、こんな気持ちになるなんて。
わかっているのに、みるみるうちに速まっていく心臓の音。
大学は春休み真っ最中で人が少ない。図書館の奥まったこの席にいるのは、須和くんとわたしだけ。
もし。もしも今、この唇に触れたら。
わたしたちの関係を変えることができるのかな。
わたしは須和くんが好きで、須和くんもわたしのことが嫌いじゃない。
まだ付き合ってないの?って、わたしたちを知ってる友達みんなから言われるような、そんな関係。
わたしから壊しても、須和くんは許してくれるかな。
開け放たれた窓からそよそよとした春の風が吹き込んで、白いカーテンがふわりと大きく膨らんだ。
誰も見てない。今なら、誰も。
――須和くん。
全身が心臓になったみたいにどきどきと脈打って、わたしはおそるおそる須和くんの唇に顔を寄せた。
あと、数センチ。
最初のコメントを投稿しよう!