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「…ごめんね。」
唐突に須和くんが呟いて、わたしはびくっと顔を離した。心の中を見透かされたようなタイミングに、息が苦しくなる。
「え?」
「ごめん」
「…なんで謝るの?」
「僕のためにハンカチ、濡らしてくれたから。洗って返すね」
「…いいよ。そんなの」
「ありがとう。早坂さん」
須和くんはそっとハンカチを取ると、わたしを見つめて少し悲しそうに微笑んだ。
いつも通りの律儀な須和くん。
ごめんね。とありがとう。は、本当にハンカチのことだろうか。
忍びよってきた途方もなくいやな予感に胸が騒いだ。
なにか決定的に、わたしたちの関係は変わったのかもしれないって。
何気ない様子を装って、わたしはいつものように切り出す。
「課題終わったら、このあとご飯食べに行かない?」
「あ……ごめん。今日は予定があって」
「そっかぁ。残念」
ぐらぐらと目の前が揺れる。
わたしの誘いを須和くんが断ることなんて今までなかった。
抗うこともできないような何かが起こったんだって、十分すぎるほど分かった。
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