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夢魔の領域には約二日間向かっていたらしい。
時間の進みを感じない場所なのよね…あそこ。
ザックは、私が小さくなった事に酷く残念そうだったから、しっかりと飛び蹴りをお腹にお見舞いし、私は自宅に戻ったの。
「報告は良かったのですか?」
「えぇ。ある程度はリリーに報告上げたと聞いたから、リリーから聞くわ。」
ザックの離島からペンションに向け歩く道は、既に夜の帳が下りる時刻、潮を含む海風が心地よく流れてる。天空には双子月が仲良く光り星達はキラキラと輝いてるわ。
「ベルーペナン港の事件はどうなった?」
「スタンが調べてます。」
「そう。アンヌから何か報告は?」
「明日、ベルーペナン港を視察されるそうです。」
「叔父上が居るんじゃない?」
「えぇ。スタンはガイノス殿下の隈が酷いと心配してましたよ。」
「……寝れないでしょうね…鼠取りもされてるし。」
「まぁ。ガイノス殿下もやっと動けるって仰ってましたし大丈夫だと思いますよ。」
「なれば、報告を待ちましょう。」
「はい。姫様は、ゆっくりお休みください。」
「えぇ。ありがとう。」
ペンションを抜け、自宅に戻ると、カガリとカイトと何故かポピット族のポンさまとヴィヴィ姐さまが迎え入れてくれたのよ。
暖かなリビングで、私の向かい側にはヴィヴィ姐さまとポンが腰掛け、カガリ・カイトは私の後ろに侍る。
「それで??貴女いつの間に夢魔の領域に行けるようになったの?」
硬い口調で口を開いたヴィヴィ姐さまは、無表情なのよ。ポンさまはそんなヴィヴィ姐さまの隣でアワアワしてる。
「……大切な御師匠さまであるヴィヴィ姐さまに秘密を持つ事をお許し下さい。ですが…言えません。わたくしはわたくしが成すべき事を成す為に、彼方に向かいました。」
「……言えない…??」
「はい。言えない。わたくしにとって、大切な事なのです。申し訳ございません。」
「……良いのよ……。ただね…マリー。夢魔の領域とは、とても不安定な場所。だからね…無茶はダメよ?」
ふぅ〜。と深く息を吐いたヴィヴィ姐様は、苦笑いを浮かべた後に、硬い表情を解いたの。
「……私にも……貴女やターニャに言えない大切な事があるから…。だけどね……マリー。貴女はもう少し、周りに本音を話をした方が良い。貴女は、皇女として生き急いで見える。目を凝らしなさい。隣に居る者達を見れなければ、他を助けた所で無意味なの。」
「……。心得ます。ごめんなさい。そしてありがとうございます。」
そう…ね。たしかにそうだわ。魂の浄化をしてる最中に思った事。周りの人に感謝を…と。
「良いの。さぁ、もう遅いわ。早く寝なさい。ポンはカイトと遊ぶらしいから、お邪魔してるのよ。良いかしら?」
「えぇ。大丈夫です。どうぞごゆっくり。では、わたくしはそろそろ休みますわ。ヴィヴィ姐さま、ポンさま。お休みなさいませ。御機嫌よう。」
ソファーから立ち上がり、しっかりカーテシーを捧げ、私は自室に戻った。そして、さっさとお風呂に入ってからベッドに飛び込んで泥の様に眠ったの。
ーーーーーーーーーーーーーーー。
「ではこのキノコ・この葉・この光虫の羽根・アクアスライムの膜・精水を混ぜ合わせすり潰すと、傷薬と同じ効果が得れますの?」
翌日の早朝に、私は狐人族の集落にお邪魔し、族長のスーリヤ様とそのご令嬢ペプル様から、薬草の効能を伺っていた。
人族の薬草学とは根本が違う狐人族の薬草学は、事細やかな組み合わせで同じ効果の薬が色々とパターン化されている。
興味津々に、薬鉢を使用して薬を作ってるペプル様と手元を覗き込んだの。
「左様、こちらの傷薬は、種族関係なく利用出来る優れ薬です。」
スンスン。香りを嗅ぐ。見た目が黄緑色だから一瞬躊躇しそうなその傷薬の香りは、意外にも無臭だった。目元の鑑定魔法を何個か開けてその性能を確かめ私は目を丸くしたの。
小さな子供からお年寄りまで利用可能なその傷薬は、擦り傷・打撲・切り傷・打ち身・火傷・皮膚被れ・アトピー・肌荒れ等。様々な怪我に効果が高いのに皮膚に優しく出来てるの。
「……スーリヤ様。こちら売り出しは可能ですか?」
「売り出しとは?」
「わたくし、商会を運営しておりますの。いつか、あなた方が大手を振って人族と対等に生きる場を、わたくしが作ってみせます。ですから、まずは、あなた方の素晴らしい知恵を貸して頂きたい。」
私の言葉に、スーリヤ様は顔を渋くさせ押し黙る。ペプル様は、作ったものを終い、使った道具を洗ってから、父親を見上げて笑みを浮かべた。
「お父様。私が、マリーの商会に商品を降ろすわ。きっと大丈夫。我々を追ってる者達は、ヴィヴィの森には絶対に来れない。今は、マリーが森の入り口にいてくれてる。だからさ。私が協力するのは許してよ。」
真っ黒な大きな瞳を瞬かせて訴えるペプル様に、スーリヤ様はため息を吐いた。
「好きになさい。私は反対してないよ。」
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