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燦々と降り注ぐ春の柔らかな日差しを受け、瑞々しく咲き乱れる薔薇の庭園を、1組の男女が幸せそうに散策してる。
絹を思わせる美しい水色の髪を、緩く横に纏めてる背の高い中性的な男性は、愛らしい笑顔を浮かべる、綿飴のような栗色の髪がふわふわ揺れる女性を、愛おしいそうに見つめ、幸福感を全身に纏い寄り添っている。
皇城から皇宮に向かう渡り廊下を歩いてる時、ふと視線を、庭園に向けた瞬間に、視界を埋めた光景に、私は足を止めた。
私が、見たことも無い、優しい柔らかな表情を我が婚約者は、彼女に惜しみなく向けていた。
ホルス共和国からの留学生である彼女。小さく柔らかな雰囲気と愛嬌のある愛らしい笑顔に、学園の皆が、魅せられている事には気付いていた。
手に持つ教本をキュッと握り締める。哀しみが心に深々と降り積もる。怒りは湧かなかった。
怒りなど等に超えていた。彼の心はもう私には向かない。いえ…。初めから…彼の心が私に向けられていた事など一度としてなかったのだ。
私は漸く現実を受け入れ始めていたの。私の頬を濡らす静かに流れる涙は一体どんな意味がある?意味など無いはずなのに、溢れ出る涙を止めれない。
ジーっと二人を見つめていると、ふと彼の視線がこちらに向けられた、途端に、瞳に色が消え、能面のような顔をする。
あぁ…そうよ。私は、あなたのそんな顔しか見たこと無いの。そんなに嫌いなら、さっさと婚約を破棄すればよいものを。
涙を流しながらも完璧な淑女の笑みを浮かべ、私は、彼らに背を向けた。
彼は、私が泣いてるなんて思いもしない。いいえ…。このドリスタ帝国で、一体誰が私を慰めてくれるだろう。味方など一人も居ない。私にとってココは、敵だらけなのだから…。
ーーーーーーーーーーー。
頬を濡らす涙に気付いて私は目をふと開けた。私の視界には天井がぼんやりと写る。双子月がキラキラと輝く真夜中に、嫌な記憶の夢を見た。
アレは断罪される少し前の出来事だ。
既に、私自身、彼との関係は修復出来ないと理解し始めていた。だから婚約は破棄されるだろうと思ってたの。それがいつなのか?解らないから怖くて、毎日が、悲しくて辛くてしょうがなかった。
それでも、私の大切な公務、皇都防御結界への祈祷の為に、皇宮に向かってた時に偶然見た風景。
最上の幸せを見せ付けられて、自分が凄く嫌になったのよ。誰に対しても邪魔にしかならない私の存在が、本当に悲しかったの。
やだわ…未練なんて一切無いのに、なんで、あんな一番虚しかった事を思い出すのかしら?しかも泣いちゃったじゃない。
とゆうか、やっぱり納得いかないわよね。大体、そんなに好きなら、私と婚約破棄すれば良かったのよ。
彼は、皇太子殿下カイン様と懇意だったはず、幾らでも後押しして貰えただろうに…。
そこまで考えて、少し疑問が浮かんだわ。
そうよ…。後押し出来たはずなのに、どうして皇太子殿下カイン様は、私が断罪されるまで、静観し、ただ黙って見ていたの?良くご存知だったはず、彼と彼女の関係を。なれば、幾らでも丸く納める事が出来たはずよ?
あの断罪劇は、彼が中心だったけどね。良く良く考えると、あれは皇太子殿下カイン様が主導した気がするわ。
…でもなんで??だって、皇都防御結界の祈祷は、私が一番魔力を捧げれたのよ?崩れ掛けていた結界は、私が祈祷をするようになり、頑丈に強化出来きた事は、皆が知る事実だわ。
もしかして…私の存在が疎ましかった??
いや…そんな考え過ぎよね。接点なんて殆ど無かった訳だし…。恨まれる覚えは無いもの。
なんだか気分悪いわ。兎に角もう寝ましょう。
イライラもやもやした私は、目を閉じて夢の中にもう一度入っていった。
悲しい夢はもう見ないと良いなと願いながら。
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