ノワール大公家の図書館

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薄暗い室内に淡いオレンジの光。いつもの如く忍び込んだ図書室。 屋敷の外は、針のような細い雨が、まるで歌声のように囁いてる。季節の変わり目に降る霧雨は、もうすぐ夏が来るのを感じさせる。 レイラとリリーアンヌは、母屋に呼び出しをくらい、本日は、暫く離れには戻れない。と早朝に言われたの。恐らく、私の教育状況をノワール大公に聞かれるんだわ。そろそろ本格的に、淑女教育を開始しなければならないもの。 ペラリ。ペラリ。古書を読み込みながら、思うのは、これからの事。 どうやって、この鳥籠から飛び出して行けば良いのか…思いつかないの。今読んでる古書にも、そんな事は書いてない教えてくれないわ。 せめて、10歳の時の魔力測定の後には、悔恨無く堂々と飛び出して行きたい。けれど、それをするには、私の不安定な立場が邪魔をする。 鬱々と考え込む私は古書を読むのを諦めた。 内容が全く頭に入らない。そっと古書を閉じ、目を瞑る。 考えろ。考えろ。何か方法があるはずなの。集めた情報と前世の記憶を擦り合わせる。 今世でも、既に、私は「皇家の忌子」と呼ばれている。どんなに皇族の証が強くても、やはり、暇を持て余してる貴族達は、生け贄に私を選んでるの。このままでは、必ず面倒くさい立場にまたなってしまうわ。焦っては良い考えが浮かばないのも解ってる。 モヤモヤし過ぎて両手で頭を掻き毟る。髪がぐしゃぐしゃになってしまうけど気にしてられないわ。 悩んで悩んで悩んで、ふと閃いたの。いっそうの事リリーアンヌ達に相談しようかしら?って。 前世と今世の違いで、もっとも大きいのは彼女達の存在だ。他にも、精霊・妖精が見えるとか、この図書室を発見したとかあるけれど、でもね、一番違うのは彼女達なのよ。だって前世では会った事ない二人なんだもの。 目を開いて、古書の横に置いてある紙を徐に手に取るの。羽根ペンを握り、これから先の時系列を書き出した。前世の流れを一度整理する。 来年から第一皇子カイン殿下の生誕祭が開催される。私は、8歳から招待状を頂く。 本来なら、初回から招待されても可笑しくないんだけど、現皇帝妃が良い顔しないのよね。それなら、ずっと招待見送ってくれてれば良いのにね。皇帝陛下は、私の事なんてどうでも良いんだろうけどね。 8歳から毎年招待状が届くようになるの。ご丁寧に私個人の名前でね。現皇帝妃の地味な嫌がらせよ。個人名だから、私は、ノワール大公家の方とは別の馬車で、皇城に候しなければならないんだから。 10歳の時、魔力測定がある。この時に、私は、同世代の中で、飛び抜けた膨大な体内魔力保持量と希少属性の闇属性が判明する。そのせいで忌々しい皇族教育を受けねば成らなくなるのよ。…そして彼と出会うのよね。皇城で。 ……思い出したらイライラするわ。アレって、どう考えても、皇帝妃殿下の地味な嫌がらせの一貫じゃない。 深呼吸。深呼吸。落ち着いて私。怒りは思考を狂わせるって習ったもの。冷静に。冷静に。 12歳の時に私と彼の婚約が決まるのよ。 そこまで書き出し手を止める。やはり10歳が分岐点になるわ。今はまだ4歳だもの…。鳥籠から飛び出して行ったら、誘拐騒ぎになってしまう。 10歳まで後6年。そうか、それまでに、庶民として生きてく術を手に入れなきゃならないのね。逆に言えば、その術を手に入れたら、私がココから飛び出してもなんの問題も無いわ。誘拐騒ぎは起きるかもしれないけど、知ったこっちゃないわ。一応お世話になってるから御礼と謝罪を丁寧なお手紙にしてノワール大公に書き置こう。 グルリと図書室を見渡すの。此処には沢山の知恵が眠ってる。きっと、何か、私が生きてく術が埋まってるハズ。その前にリリーアンヌ達にもそれとなく相談しなきゃ。 あぁ…でも。私が出てく前に、レイラは実家に戻してあげないと。 レイラが、もしも、私が飛び出してく時に、側に居たら、彼女は責任を問われてしまうもの。 ココから出たらまずレイラの元に行くの。絶対に回避したい事は、レイラの事件なんだから。 その後、13歳になったら帝国中を歩き廻る。私がすべき事を見極める為に。 なんとなく方向性が定まった。これからすべき事柄を別紙に書き出すの。 書き出した紙を二枚見比べ私は笑みを浮かべた。 まずは出来る事から潰して行こう。 とりあえずは、図書室の蔵書を全て読むわ!! 閉じた古書を、もう一度手にとって、しっかり読み込む為に、私は真剣に没頭したのよ。
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