ノワール大公家の図書館

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「マリアンヌ、マリアンヌ、マリアンヌ!!ちっこいジェラルドとユリアンナがこっちに向かってるよ!!」 レイラとリリーアンヌが居ない隙間を縫って、図書室に訪れ、蔵書を読み漁っていたら、焦って寄って来たのは光の精霊。私は、光の精霊を総じてレイ。と呼んでるわ。 因みに、レイが、ジェラルド・ユリアンナと呼んでるのは、ノワール大公家の双子兄妹である。年頃は私と同年代、つまりピチピチの4歳の幼児なの。 「向かってる??ご兄妹には、護衛がついてるんじゃないの?」 大変活発なご兄妹は、とっても悪戯好きらしく、度々ノワール大公からお叱りを受けるらしい。でもちっともへこたれないんだって。だけどお二人とも大変優秀で、ノワール大公家のお血筋らしく母屋図書館に入り浸り、蔵書を読み漁ってるんだって。 「ついてるよ。けど護衛を撒いたの!!凄かったよ〜!!色んな所に忍びこんで大人を撒いちゃた!!」 クルクル楽しそうに廻るレイは、キラキラ発光してる。小さな精霊達は、その気持ち起伏で発光したり萎んだりするのよ。 「どこに向かってるの?」 「ここ。」 「ん??ここ?」 「そう。なんか、ガルシア様の秘密のお部屋に行こう!!って二人で話してたよ。」 「ん??隠し部屋??私もまだ見つけれてないのに?」 「ちがぁう!!ココ!!ジェラルド達が言ってるのココ!!」 あぁ、ココか。確かに秘密のお部屋だわね。けれどね…。扉に視線を向けて苦笑い。この部屋の入り口の扉…。まだ魔力循環も学んでない齢4歳で開けれるかしら? 「部屋の鍵開けれるかしら?」 「無理に決まってんじゃん。違うマリアンヌ!ココに来るまでの、母屋と離れを繋ぐ渡り廊下ですら無理だって。トラップ魔術いっぱいあるんだよ?危ないじゃん!!なんとかしてあげて!」 なんとかしてあげてって言われても、私、今世では、まだ、渡り廊下に行った事無いのよ? レイが、その数を増やし私に必死に伝えてくる。やだ…怖いわ。光の集団って目に対して凶器に近いわね。眩しいから目に手を掲げて保護するの。 ノワール大公家御子息御令嬢には、会いたくないんだよ…。いや、前世と今世は違うかもしれないけどね…。私にとっては、若干トラウマ兄妹なんだよね。 これ以上レイ達の数が増える事に恐怖を覚えた私は、仕方なしに椅子から降り、入り口に向かった。 図書室を出て直ぐの横長い廊下。右手側は私の私室に続いてる方。左手側が、母屋と繋がる渡り廊下に向かう方。渡り廊下に向かうには、複雑な迷路を攻略しなきゃならないわ。だから、廊下に出た瞬間から、気合いを入れて足を進めるの。 私が住まう離れ屋敷の構造は、大公家の屋敷としては変わってる。歴代のノワール大公家の方々が、都度都度、増築減築を繰り返して来たの。だから、主なる廊下はあるのだけれど、いきなり壁が出て来たり、階段を登ったり、回転扉があったりってよくわからない構造よ。 まるで迷宮ダンジョンの様な改変増築をされた方は、著名な冒険者兼建築技工士だったそうなの。当時のノワール大公様は、改変増築が全て終わった時、絶句されたそう。 こんなの誰が住めるんだ!!!って御怒りになられたらしいわ。そら怒るよね…趣味全開なんだもの。 そんな複雑怪奇な離れ屋敷に、私が住まわせられてる理由は、単純に、暗殺・誘拐防止策の一環。侵入者が簡単には攻略出来ないからね。だって住んでる人すら迷うんだもの。 この離れは、ノワール大公家にとっての護衛対象を住まわせる屋敷だったりする。だから今は私のお家なの。 記憶を頼りに、複雑な廊下を右に左に曲がりながらテクテク歩いていたら、正面の右側の廊下を曲がって、此方に歩いてくるトリスタンが現れたの。 「トリスタン!!!渡り廊下に、侵入者!!」 大声でトリスタンに伝えたら、苦笑いを返された。 「侵入者じゃなく、貴女の従兄妹ですよ。ご安心下さい。護衛達がしっかり捕まえて、母屋に送り届けに行きましたから。」 私の正面で歩みを止めたトリスタンは、私を抱き上げてまた歩き出す。 「姫様の秘密のお部屋、見つからなくて良かったですね。」 「秘密じゃないわ。見つけただけだもの。楽しいわよ図書室。」 「夜寝静まった時に、抜け出して籠るのは関心しませんよ。」 「たまにだもの。寝れない時だけだもの。」 「リリーアンヌが見逃してる内はまだ良いですけど、リリーアンヌ怒らせると秘密のお部屋隠されちゃいますよ?」 トリスタンはクスクス笑って警告してくれた。そうか、リリーアンヌが切れそうなのね。 リリーアンヌは怒るとめちゃくちゃ怖いの。背後にブリザードが吹き荒れる幻覚が見えるのよ。 「わかった。しばらく我慢する。」 渋々私が伝えれば、トリスタンは頭を優しく撫でてくれた。 「姫様はまだ小さい。しっかり睡眠を取る事は心身共に、成長を施します。眠れない時は、ゆってください。我々が助けになりましょう。」 優しく諭してくれるトリスタンに、すっごく申し訳ない気持ちが浮かぶ。 だって眠れないのは、単純に図書室の本が面白くて続きが読みたくてしょうがないんだもの。 「わかった。言うね。ありがとう。」 御礼を伝え、どう図書室の本を読む時間を確保するか考える。昼間は、色々と習い事の時間に割かれるから、なかなか図書室に行けないんだ。 小さな体と18プラス4歳の精神は、アンバランス。今習ってる習い事は、簡単過ぎてつまらない苦痛な時間。だけど、ただの4歳の振りをする。下手に優秀だと騒がれてしまったら、ただでさえ「皇家の忌子」と呼ばれてるのに、更にレッテルが山積みになってしまうから。 トリスタンに送られて私室に帰れば、レイラも帰って来ていて出迎えてくれたんだ。 今世では、ふとした瞬間に、泣きたくなるほどの小さな幸福を感じる。だって、まだレイラが側に居てくれるんだもの。しかも新しくリリーアンヌ・トリスタンが居てくれる。 何かが変わってく事を、私はなんとなく感じながら日々を過ごしてた。
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