990人が本棚に入れています
本棚に追加
追従させ紡ぎ出すのは不可視魔術。無数の魔法陣が発動すれば、その光は洪水となり地下都市に降り注ぐ、それを防ぐ魔術を発動させてから、私は自分の髪も瞳も本来の色を纏っている事を警戒し、不可視魔術符を更に身体につけた。
二重に付ければ、余程の事がない限り人には見えない。砂竜には影響出ないように、調整し、頭上の天井に、皇都の防御結界と似た結界がしっかり引かれたのを見届け、亜空間から回復ポーションを取り出し飲み込んだ。
風龍の存在をマルッと無視しいない者と扱い、砂竜に下に降りるように合図を送り、地下都市ラクロを目指す。ラクロの近くには、皇都の大門と近い存在と思われる朱大門がある。
その祭壇に降りて貰い、砂竜から飛び降り、祭壇の中央大理石の上に飾られる結界石があるのを確認し、階段を登り近寄った。
結界石を染めるグレーに近い色の呪詛
その形状をマリアンヌは見た事がある。髑髏を象るその呪詛を、簡単に呪い返ししてみせた白金髪の金のオーラを纏う男を思い出し、力んでいた身体の力が抜けた。そのまま首を傾げ、腕を組みマジマジと見つめてしまう。
「冥府の呪い。なんでこんなモノがこの地に?」
髑髏に……蛇。蛇といえば……アトラが忌忌しそうに『大蛇』と言っていた。それと関係がある??う〜ん……。と悩んでいると、隣にフェンリルが現れ、仔犬に変化しマリアンヌの肩に乗った。
『一角獣は送り届けた。』
ゆらりゆらりと尻尾を振るフェンリルの頭をクシャリと撫でる。
『ありがとうフェンリル殿。』
御礼を伝え、目の前の呪詛に意識を集中させる。地の利を生かし紡ぎだされた守護法陣の一角である朱大門。大門を利用した守護法陣は、恐らく地盤崩落から地を護る為にも利用されている。ならば、それを強化出来ないだろうか。
階段から降り祭壇の周りをクルクルと歩き、祭壇自体が、魔力浸透の良いエレクトラムで出来てる事に気付いた。エレクトラムは、金と銀出てきた琥珀金。魔除けと癒しの魔力を宿す物。そっと方形状の台に手を置き神気を流してみる。波立つように淡く光る様子に、この祭壇自体が、守護を司る事が伺いしれた。
口角が緩く吊り上がる。スタンに教えて貰った呪い返しを早速行う為に、祭壇の階段を登り、さっさと魔術を展開させた。
早く朱大門を強化させ、この地下都市に散らばる残りの大門も強化せねばならない。その内、他の地下都市も強化せねばと思いながら、マリアンヌは作業に没頭していった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「久しゅうございますなぁ。」
口のあたりに意地悪い笑みを彫りつけたように浮かべる男を見つめリリーは、視界の中に映り込む景色に無関心を装って笑みを返した。
高い天井には小さな魔法灯が淡く光りを放っているが、その光が室内を照らすには殆どなんの助けにはならなかった。男が気怠気に腰掛ける椅子は、別大陸にあるオルマースト帝国の貴族達が好んで利用する大振りの彫刻のこんだ寝椅子である。その寝椅子には高級シルクがかけられて、更に、寝椅子を囲う宮には、繊細な刺繍が施されたレースが垂れ、左右にゆったりと結ばれていた。床に不規則に置かれたハスの形をした灯篭型魔法灯の淡い紅色を纏い、焚かれている香も相成り甘く卑猥で官能的な空間を作り上げていた。
どこか冷たい感じがする整った顔の左頬には、罪人の証である焼印が刻まれているが、惜し気もなくそれを晒しても彼の持つ美しさを損なう事はない。地下都市に潜り陽の光を浴びぬ肌は抜ける様に白く何処か浮世離れした雰囲気を醸し出していた。
こんな地下都市の歓楽街を根城にする気狂いと名高い男の名は…プルフラスと言う。悪魔族の公爵と同じ名を好んで使う男の本名をリリーは知らない……事になっている。
魔力が無い忌子と呼ばれた男は、異端者と呼ばれ迫害されたと聞く。歳を重ね、烙印の焼印を刻まれた瞬間、体内魔力が爆発し、彼の故郷の神殿とその周りは吹き飛んだ。今は、その地は忌み地として放置され、その地を含む街は地図から消えたのである。
男の過去を脳裏に反芻し、リリーは笑みをキープしたまま、男にしな垂れ掛かる裸の女達を愛でる様子を冷ややかに見据えた。
「プルフラス殿、人払いを。」
しなやかな指で女達を玩ぶ男は、リリーを見つめたまま女の首に音を立て口付けると、彼女達に下がれ。と小さく命じた。
つまらなそうにキセルを取り出し、火をつけ吹かす男はリリーの身体を舐めるように見つめ艶やかに嗤った。
「それでなんの用ですかな?」
不躾な視線はいつもの事ではあるが不快な事には変わらない。されど、作り切った笑みを崩さないでリリーは亜空間から取り出した物を男に向け投げ付けた。
気怠げな体制のまま品物を受け取った男は、それをクルリと回し口角を吊り上げる。
「此方の品物は、わたくしが創り出した物ではございませんよ。」
簡素に答え、手に持つ品物をとさりと投げ落としリリーを流しみる男からはなんの感情も読みとれない。
「貴方のエンブレムが刻まれ、貴方の愛用する魔香が染み込むソレを貴方の創り出した物でないと言い切る根拠は?」
「さぁ?わたくしが創り出す作品は、そんな雑な物じゃあございませんよ。あぁ、、、なんなら体験されますか?」
「ご冗談を。わたくしが貴方にお逢いしに、態々、この地まで足を運んだ意味を、わたくしが、隊服を纏っている意味を、貴方が理解していないとは言わせませんよ。」
爪垢ほども信じていないとはっきり瞳に宿し、非難を含む語勢で淡々と言い放ったリリーに対し、男は片眉を上げると口角を吊り上げた。
「はて、さて、、高尚な方のされる物事に、どういった意味が含まれているか、わたくしにはとんと解りませんね。なにせ、わたくしは学がございませんから。」
人を食ったような態度と嘲笑かと思われるほどの歪んだ笑みを浮かべせせら笑う様子は、彼と対峙する時はよく見る光景だ。リリーは小さく、されど、ワザとらしく息を吐き出し、もう一つの品物を投げ渡した。怠慢な態度でもしっかり品物を受け取った男の眉間に深く皺が寄るのを見つめリリーは唇を動かした。
「……貴方様が、会話を楽しまれるのは幾らでも構いませんよ。しかしね、貴方が仰る高尚なる立場が、どの立場を示してるか解りかねますが、コレだけは言える。……我が国で生きるのであれば、その身が闇に沈み腐ろうとも、『法』は護って頂きたく。我々、皇族特殊部隊は、そもそもが『影に生きる者』、貴方様とは立ち位置が違うだけであり、我々もそれなりに暗闇を知る者にございます。
その魔導具に刻まれるエンブレムを貴方は良くご存知にございましょう。
先程、貴方が否定された魔導具と、今、お渡しした魔導具は、同じ商会が利用しておりました。そして、既に、貴方様はご存知かと思いますが、今、現在、地上にて行われている大粛正に於いても同じエンブレムが刻まれた魔導具が発見されております。
アンダーグラウンドに於いて、他に追従を許さぬ魔導技工士であるプルフラス殿。
貴殿が創り出した魔導具で、どれ程の麗若き少女少年が奴隷市場に流出したかご存知か?
わたくしは、お伝え致しましたよ。隊服を纏いこの地まで赴いた意味を貴殿が解らないとは言わせないと。
さぁ……お答えを……貴方は……貴方を苦しめ故郷すら消失させた大蛇の手先にいつの間に落ちたのですか?」
冷ややかに言い切ったリリーに対し、今回対峙して男は初めて表情を能面のようにツルリと消し無表情に此方を見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!