大蛇の吐息

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「聖堂と教会と神殿かしら?それにしては……どの施設もコジンマリしてるわね。」 フェンリルの背中に乗ったまま見下ろす場所には、草原と湖と湖の周りに三角形を成し、互いを牽制するように3つの施設が立っていた。 空中から見下ろしているし自分には不可視認識不可魔術符が付いている為、この辺に誰かが居たとしても姿は見えないはずだ。 湖を囲み綺麗な正三角形を形成するそれに、どこから寄るべきか悩み、じっくり見下ろしていると、フェンリル殿が、グルルと喉を鳴らした。 『……あの教会は……やめといた方が良い。』 「……なにかあるのですか?」 示された教会は、辺境地に良くある小さな教会であり、特に何が可笑しいと言う訳でもない。といっても、私の感知魔術にはなにも引っかからないだけで、フェンリル殿のように、神獣と呼ばれる方には、私とは別の何かを感じとっていても可笑しくは無かった。 『……アレは、冥界と繋がりがある。今のマリアンヌは、良くない、耐性が脆弱だ。』 「冥界と繋がるとは?」 『冥界とは魔界の地下層だ。あの教会は、既に廃棄されたようだが、まだ、気配が濃い。』 フェンリル殿の説明に、目を見開き、鑑定魔術を開いて教会を見つめる。確かに、脳裏に浮かぶ情報には、私が理解出来る範囲にない事があがってくる。要するに、フェンリル殿が仰る通り、私には耐性が出来てないのだろう。 「冥界と繋がる事など可能なのですか?本来魔界と地界には不侵入の壁が引かれていると伺ってます。魔界の地下層なのであれば、魔界より地界と繋がる事は難しいのでは?」 『……通常であれば不可能だ。しかし、今は、境界を事態を維持するユグドラシル様の力が、殆ど、消失している。その為、境界の壁が脆弱となり、魔族が地界に現れ易くなっている。 本来なら、召喚契約以外では、魔王とその幹部・大公爵ぐらいしか、行き来など出来ない筈だ。それでも、奴らの魔力は抑制され、本来の7割以上抑えられ、3割程度しか発揮出来ないのだ。召喚契約で召喚された場合は、本来の力の5割まで抑えられている。コレは、この世界の理であり、違えぬ事であるよ。 である筈なのに、現状は、中位クラスの魔族が簡単に地界に現れている。力事態は弱いが数が多い。ならば、冥界のモノなど簡単に境界を越えるだろう。冥界のモノは、中位クラスの魔族より力強く、闇属性に特化した奴らが多い。』 「なるほど……。では天界と地界は?」 『天界とは、神族の天上界の加護を受ける場所。その為、境界の壁事態が弱くなろうが、天上界が、天界の者が堕落する事を赦さぬ。 だが……。遥か昔、それこそ、我が、この地界に産まれでた頃、自主的に天界より、堕落した神とその眷属達が居た。 ユグドラシル様の守護を命じられた者達とは別にな。自主的に堕落したその者達には、天上界より神罰が下り、冥界の奥深くに閉じ込められたのだ。今でも、冥界の深くに封印されている筈だが、腐っても神だ。何か手立てを持つかもしれんな。』 ふむ……やはり、幼き精霊達とはまた違う知識をフェンリル殿はお持ちのようだ。とゆうか、魔界に冥界があるのは初耳だ。3つの世界で構成されたと、創造主は仰っていたのに、どう云う事かしら?一回、原書で確かめなきゃ。 「……フェンリル殿は、ドリスタニア伝記をご存知ですか?」 『あぁ。乳繰り合いの話だな。』 「まぁ、そうなんですが、そうじゃなくてですね。あの伝記には、人族の中では消された部分がございます。我々皇族や、恐らく、他国でも王族などの高貴高位支配層にしか、伝承されぬ暗黒世紀と呼ばれる時代がございます。」 『ジラント龍帝国の話だろう?』 「ジラント龍帝国??……いえ、創世紀の前世紀ですわ。 我々人族の祖先、猿人族は罪を犯した。各種族の長を、地に埋め封印し、自分達が優位となる世界を創り上げた。そんな伝記ですわ。」 『………終焉と創造の話か?』 「いえ、、、。まぁ、ある意味そうなのかしら……。ジラント龍帝国とは?」 『…………まぁ、お前達、ドリスタニア大陸単品の話ではなくてな。 この星が作られた時、世界は水と炎で出来ていた。そこから、創造主は、大地を作られ、炎を星の中心に置き、エネルギーとされた。海が生まれ、川が生まれ、植物が生まれ……そしてこの星を守護する世界樹ユグドラシル様が芽吹かれた。 ここまでの流れは、どの大陸も共通だろう?』 「えぇ。そうですわ。」 『そもそも、地界には、大きな大陸が5つあったのだ。ドリスタニア大陸・ユーラシア大陸・ジラントニア大陸・メルリヌスニア大陸……そして氷と氷山のみで出来たモネストリア大陸。 現在残る大陸はドリスタニア大陸・ユーラシア大陸・メルリヌスニア大陸だ。ジラントニア大陸とモネストリア大陸は消失した。二つの大陸が消失した時を終焉と呼び、唯一残った3つの大陸が、それぞれで構築される事を創造と呼ぶ。それが、終焉と創造と呼ばれる伝記。』 「ジラント龍帝国は、その伝記のどこに関わるのですか?」 『ふむ……非常に長い話となる為、細かい事は、創造主様の原書で確かめよ。簡単に説明するぞ。 元々、ドリスタニア大陸は、世界樹ユグドラシル様を有する大陸。様々な種族が共存する桃源郷だ。 ユーラシア大陸は、ダーク系種族と呼ばれる種族が住む大陸。要するに闇属性・影属性に特化した種族が生息した大陸だ。 メルリヌスニア大陸は、、人族の祖先、猿人族で形成された大陸だ。 ジラントニア大陸は、龍族が住う大陸であり、星を守護する神殿があった大陸だ。 モネストリア大陸は、元祖にあった水・氷・炎に特化した種族が住う大陸だ。 元々な、大陸は、バランスを持ち互いを尊重する様になっていたのだよ。 その中で、武力に特化するジラントニア大陸に、ジラント龍帝国は存在していた。星を守護せし神殿にて祈りを捧げ、星を護る聖女頂点とした巨大な御国だったよ。 世界樹ユグドラシル様を有するドリスタニア大陸には、世界樹ユグドラシル様に祈りを捧げ、我々神獣や精霊と共に生き、その恵みを地に海に空に星に巡らせるのが世界樹ユグドラシル様の護り人、精霊聖女だ。 そして、世界を形成する全てのモノに、命を与え、巡りしユグドラシル様の恵みや、星を護る聖女の祈りを強化し、巡回と終焉と再生を司るのがモネストリア大陸の聖殿の神官だ。 その3つの大陸の聖女達が、龍脈を操り地を海を空を巡回させていたとも言える。』 フェンリル殿が語られる星の誕生からの種族の誕生は、私が知らない話であり、内心、かなり驚いていた。何より、私が知る大陸は、ドリスタニア大陸とユーラシア大陸であり、他の大陸がかつてあり、今もその中の一つが存在してると言うことに驚愕していた。 『……バランスは取れていた筈が、ユーラシア大陸・メルリヌスニア大陸に住う者達は、3つの大陸の巨大な力を妬み始めた。そこから、争いが始まり、メルリヌスニア大陸では、龍族を越える魔力を持つ1人の人族が生まれ、ユーラシア大陸では、神官を越える神力を持つ1人のダークハイエルフが生まれた。 そこから、全ての大陸は、互いを牽制し合い、闘いは激化し、モネストリア大陸は、ダークハイエルフの神滅魔法により消失し、ジラントニア大陸は、ジラント龍帝国を滅ぼした人族により壊滅しモネストリア大陸の溶け出した水により沈んだ。それを終焉と呼ぶ。』 「……ジラント龍帝国は、1人の人族により壊滅したのですか?ダークハイエルフは、理解できます。彼らは、我々人族とは魔臓器の作りが根本から違いますもの。しかし、人族でそれほどまでに力を有するのであれば、それは人族とは呼べないのでは?」 『さぁ、、、我が生まれた頃の話だからな。桃源郷には特に被害はなかったんだ。ただね……約3万年、世界は厚い雲に覆われ、様々な種族が絶滅していったよ。桃源郷は世界樹ユグドラシル様の加護で守られていたが、他の地はね…。本来であれば、龍の神殿の聖女・氷の聖殿の神官が他の地に世界樹ユグドラシル様の力が巡るように媒体となっていた。それが無くなれば、加護など消えてしまう。』 「……まって下さい。世界樹ユグドラシル様は地界の母樹にこざいましょう。何故、その加護が桃源郷以外には届かないのですか?」 『世界樹ユグドラシル様事態、当時は産まれたばかりであり、加護の力を弱く、ドリスタニア大陸を守護するで精一杯だったのだよ。』 聞けば聞く程混乱が深まるわ。……コレは、フェンリル殿が仰る通り、しっかり、原書で学習する事が必要だわ。ズキズキと痛む頭を一度振り、考える事を放置した。 「……一度、原書を読み込みますわ。……兎に角、フェンリル殿は、彼方の教会は避けよと仰るのよね?あと二つは大丈夫かしら?」 『あぁ、そうしなさい。話は長いからな。 そうだな……あの二つは特に妙な気配はないがこのまま、不可視の状態で向かう方が良い。』 「かしこまりました。では、まずは、彼方の聖堂へ降りて下さいませ。」 話を強引に切り、フェンリル殿に降下をお願いする。私から話を始めた癖に、ブチリと終わらせてしまった事を少々申し訳なく感じたのだけど、フェンリル殿は気にならないらしく、ゆるく尻尾を振るとゆっくり降下していった。
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