グノームルド一族

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グノームルド一族

巡回から帰宅し、翌日の朝食は早めに用意していただけるようにお願いするとマーヤさんは、快く承諾して下さった。その際、マーヤさんに、翌日、ウィンダムに行く旨をついでにお伝えする。 マーヤさんは、目をパチクリされた後ニッコリ微笑み、丁度良いのでお使いをお願い出来るか?と頼まれたから了承したわ。 「マリー様であれば、恐らく彼らもお逢いすると思います。私は、彼らの協力者ですから、ずっとこの機会を待っていたのです。やっと、彼らの事を託せる方と繋ぎを持てました。」 そう仰るマーヤさんは、何処か安堵の表情を浮かべていた。まるで肩の荷が降りた……そんな感じで。 「……それはマーヤさんが、天狗族の方である事に関係しますか?」 確信を持って伺うとマーヤさんは柔らかく目を細め深く首肯する。 「えぇ。マリー様のお身体を拝見させて頂いた時に確信致しました。人化した私を正確に捉えるだろうと、ですから、彼方にも連絡を致したのです。」 「天狗族の方は、余り人里に降りるイメージがなかったので半信半疑でしたよ。」 「ふふっ。そうですね、私の生家は、逸れ天狗族です。元々は、ハウルゼス卿の母君のご実家に、離島の一つを利用し匿って貰っていたのですよ。あちらの御国では亜人族は生きにくいので。」 「そうなのですね、安全に過ごせる場所があったのは良きことですわ。ご家族は彼方にいらっしゃるのかしら?どの国も亜人族の方は安全な場所が少ないとわたくしも感じておりますわ。わたくしが逢うべき方は、天狗族と馴染み深い、失われし一族の方々なのかしら?」 「………生家の者達は、皆亡くなりました。ですから私は、ハウルゼス卿の母君の御婚姻の輿入れに随伴したのです。彼方から、マリー様にコンタクトがあるかと思います。どうぞ良しなに。」 「不躾な事を伺いました。畏まりました、では、彼方からの接触を待ちますね。」 「ふふっ。わたくしには、血は繋がらなくても子供達がおりますから、お気になさらないで下さいな。えぇ、恐らく、私がお願いした御使いをこなされてる時に接触があるかと。」 「出来るだけ穏便に済ませたいですわね。では、わたくしは休ませて頂きますわ。」 「えぇ。ごゆっくりお休みくださいませ。」 丁寧にカーテシーを捧げるマーヤさんに返礼のカーテシーを返し、私は温泉へと足を向けた。     ーーーーチャポンーーーー 石灯籠の手水鉢と鹿威しの水の流れと音色は、耳に心地良い。疲れた身体を湧き出る温泉に浸せば、ほぅ〜と吐息が漏れた。 東国の造りの温泉は、マーヤさんが天狗族だと知れば納得出来る本格的な、あちらの御国の温泉だ。目隠しに人工竹垣を設置し、自然の緑を楽しませ、手前に、石灯籠・手水鉢・鹿威しを設置し、ランダムに景石や敷石を置き風情がある庭が作られていた。 我が国とは異なる文化は不思議な感覚を持たせる。それも南方ではなく西部で、蔵書等でしか拝見した事の無い東国の文化を、リアルに体験する機会を得れるとは思ってもいなかった。貴重な上有り難い体験だ。 ……ご家族は他界してると仰るマーヤさんの表情は、とても落ち着いてらして自愛に溢れていた。お子様が居らっしゃる、それが支えなのだろうか……。 それにしても……南方から始まり西部で、失われし一族と出会う率が高い。それも、属性の一族と山神を祀る一族。どちらも稀有な存在だ。 朱雀が現れヴリドを拉致したとの報告を目にした時は、方位四神獣も関わってくるのかと驚愕したの。 全ての出来事が、私に、桃源郷の復活を急かしているような気分になり、クリスタルの捜索を急がなければならないと感じているのよ。一応、うん。やる事が多すぎてなかなか其方に集中出来ていないけれどね。 ズズズ…と顎先まで温泉に浸かり、身体を石垣に預けて目を瞑る。途端に、遙か上空…とゆうより地上側から、真っ直ぐ見下ろすように感じる無数の気配は、此方を伺っていた。このパターンは、つい先日もあったのよね……。スーリア様達が聖殿を強化して下さったし……それを感じとられたのかしらね…。ならば、其方に行けば良いのに、態々、私を見にいらしたのはマーヤさんからの接触って云うより……オータムから報告があった、霊峰周りに貼った結界やら映像魔導機やらの事があるからでしょう。 閉じていた目を開け、更に身体をお湯に沈めるブクブクと行儀悪く息を吐き出しながら、考えるのは、様々な問題の解決策と、その間にすべき事。色々考えていたら、ふやけそうになり、ザバリとお湯から上がり汗を流し温泉を後にしたの。客室のベッドへと寝転べばストンと夢の中へと意識は直ぐに落ちっていった。 翌日の朝早くに目が覚めた私は、久しぶりにといっても4日ぶりだけど濃厚な梔子の薫りに包まれて目を覚ました。お腹に回る腕と首の下に通されている腕、いつも思うが、器用に私を起こさず抱きしめるもんだと感心しつつ、ザックが居るなら、周りに精霊達が集まっているだろうと思い、ゴソゴソと身体を反転させ、周りに視線を向けた。案の定、沢山の精霊達が部屋を埋め尽くしていた。 特に多いのは、土属性・地属性だ。その中に一際大きい属性精霊獣。亀の精獣がフワフワと浮いていた。手足をゆっくり動かし、私の前までくると額に口付ける。なんだか可愛らしい動きをしているが、この精獣は大きく室内の半分は埋めている。だから、小さな精霊達は、亀の甲羅の上でキャッキャと騒いでいる。お布団から腕を引っ張り出し、大きな亀に触れようと伸ばせば、後ろから腕を掴まれた。 「……おはようございます。」 後から人の首に顔を埋め掠れた声で呟くから、息がかかりくすぐったい。 「おはようザック。ちょっと離して、精霊達に聞きたい事があるの。」 「えーーーやだ。このまま話なよ。そこの精獣は特に制限をかけられてる訳じゃない。ちっこいのは少し難しいみたいだし。」 「うぅん??ザック、精霊達が捉えられている事にいつ気付いたの?」 「あーーー。つかなんで気付かなかったの?割と最近なのに。」 「えっ?なんで教えてくれなかったの?」 「そこは気付こうよ姫さま、大体、俺が気付くんだから、貴女が気付いて無いなんて思わんよ。」 クスクス笑うザックは、人の身体を撫で回しては、所々に口付けを落とす。それを、やんわり拒否しながら考えるのは、フワフワ浮かぶ精霊達が、心なしかシュンとして拗ねてる様子を見せる事の可笑しさよ。いつもなら、ザックの邪魔をしてくるのに、拗ね拗ねの精霊達は、亀の甲羅の上で跳ねながら、此方を見ては、プイって顔を逸らし、って繰り返していた。 「ねぇ、グラムとノーム居る??」 ザックと攻防を繰り返しながら精霊達に問いかければ、二つの人型の精霊が、亀の甲羅の上から、ぷぅと頬を膨らませ見つめていた。2人に手招きをして呼ぶのだけど、2人はプイっと顔を背ける。 「どうして拗ねてるの?」 「「マリーは、気付いてくれなかった。」」 拗ね拗ねの2人は、甲羅の上で寝転び手足をバタバタさせているわ。、、、ちょっとかわゆいわ。 「うん。ごめんね。でも絶対助けるわ。」 「「ほんとうに??」」 「えぇ。約束する。必ず助ける、私の大切なお友達だもの、気付いてなかった事は謝る。ごめんね。」 言いながら思うのは、小さな精霊達を拘束出来る術ってなんだろうか…だ。個々を捉え強制的に使役する強引な精霊術は確かに存在するが、属性全ての弱い精霊を捉えて縛りつけるなど、相当に緻密で強い術式を利用しているはずだ。つい考え込んでしまいぼんやり精霊達を見つめてしまう。気付いたらザックに、ナイトドレスを脱がされている状態になっていて、流石に、思いっきり殴りつけてあげたの。さっさといつものシャツとスラックスを着込み、大きな精獣の前に立つ。精獣達と会話をした事はないが、なんとなく、触れればテレパスで会話出来る気がしたの。 『地の精獣クルーマ。わたくしになにか御用かしら?』 長い首から先にある頭にそっと触れ問い掛ければ、目をパチパチパチと忙しく動かした精獣は喉を鳴らす。 『聖殿の復活を願いたい。我が朋友の護りし聖殿。この小さきモノ達も、全ての聖殿が復活すれば、自ずと悪しきものから解放される。』 『わたくしの友が、グノームルド一族が護りし聖殿の強化を致しました。無論、守護結界も引かれております。お帰りになられては?』 『……戻る、あぁ、戻るよ。だが、聖殿の宝珠がまだ戻って居ない。アレがなければ、地を巡りし聖なる気が、母なる大地の護りが、脆弱なまま……。探して下さらぬか。巫女さま。』 『盗まれたのですか?』 『あぁ。欲深き・業深き・愚かなモノに。アレは、我が友が天界から託されし、我が友達でなければ扱えぬモノ。他の者が利用しようとすれば、ただの石に変わってしまう。シルフィールド一族は、失敗したのだ。盗まれ壊され、宝珠を失ってしまった。我が友の宝珠は、微弱な気配を放っている。まだ壊れていない。だから、早く回収せねばならないのだ。』 『……わたくしに探せと仰いますが、何か目印はございますか?』 私の質問に、クルーマは長い首を何度か縮めたり伸ばしたりを繰り返すと舌を出し、私の手の甲をひと舐めした。 『我が聖気を付けた。我が聖気が、宝珠の場所に導いてくれる。我は、霊峰レプサンに向かおう。』
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