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奥へ奥へと向かう程、清浄な気はその濃度が濃くなる。底知れぬ冷やかなる厳粛な気に、全身がゾクゾクと泡立つのが抑えられない。恐縮し、身体を震わせる私を、ザックは縦に抱き上げた状態で自分の両腕に座らし見上げたの。
「大丈夫だよ。側にずっと俺がいる。姫さまは、神気の満ちた場所に初めて足を踏み入れたから、気圧されてるだけだ。ゆっくり深呼吸して…この地の気を自分に満たす様に。」
ザックの言葉に頷くとゆっくり深呼吸しながら、その首に抱き着いたの。番とか良く分からない。本音を言えば、別に私はザックを男性として愛してる訳じゃない。だけど…ザックの側は、前世から心地良かったのは事実なの。学園中で私がザックに懇意してるって噂になるくらいには、私は彼に気を許してた。
何度か深呼吸をすると、気分が落ち着いてきてやっと通常な精神を取り戻した。ザックの首から腕を下ろし、見た目よりもしっかり筋肉がついてるその肩にそっと手を置くの。
「もう大丈夫だから下ろして。」
「ダメ。」
「……下ろして。」
「イヤ。」
「下ろせ。」
「諦めて。」
無謀な言い合いをしてるザックの表情は柔らかい。早く大きくならないかな〜。楽しみだなぁ〜。って呟きながら嬉しそうだ。意味の無い攻防は、私の緊張を解す為なのかも知れないけどね。
「チッ……着いたから下ろすね。」
小さく舌打ちしたザックは、不本意だと全身に表しながら私を下ろしたの。
「……キレイ……。」
洞窟の剥き出しの岩には自然が作り出した渦巻き状の模様。岩の隙間から降り注ぐ陽の光が祭壇に刺し、所々にある自然な結晶石は、清浄なる聖気を吸収し各エレメントの光を纏っている。
祭壇の作りは至ってシンプルだけど、大理石で作られてるからか、高尚な場に相応しい堂々としたモノだった。
「さぁ。マリーさま。あちらの祭壇に仰向けで寝転んで下さい。」
立ち止まりその場を見渡してた私に、ユーリさんの聖剣が、にこやかな表情で告げた。
案内人をしていた天使族の女性はいつのまにか消えていて、多分祭壇奥の扉の向こうに行ったのだろう。
私は言われた通り、祭壇に乗り上げて寝転んでみた。ゴツゴツとした岩が重りあう天井の隙間から降り注ぐ光には、どうやら清浄なる気が含まれている。冷んやりとした石の感触を身体の接地面で感じるのに、降り注ぐ光から与えられる仄かな温かさがじんわりと身体の隅々まで満たされていく。
あ……やばい……寝ちゃう……。
余りも気持ち良くて…ウトウトとし、瞼が痙攣しながら閉じいくの。
あ………寝てる間に魂の浄化やるのかも……。
見たかったわ……魂の浄化……。
私は心地よい眠気に誘われストンと眠りに落ちたのよ。
ーーーーーーーーーーー
「……それで報告はないのか?」
仮本部となってるベルーペナン港に建てられた簡素な建屋の中、シンプルな執務机に片肘をつき不機嫌な眼差しで睨む皇弟殿下ガイノスは、疲れているのか、目の周りが薄黒く隈を作っている。
「……ガイノス殿下……休まれてますか?」
余りにも疲れ切った顔してるから、トリスタンは、つい亜空間から自身が作った体力回復ポーションと魔力回復ポーションを取り出しそっと机に置いた。
トリスタンの行動に、ガイノスは更に眉間に深く皺を寄せ壮大な舌打ちをした。
「…チッ!!……誤魔化す気だろお前。」
おや?良くご存知で…。心内で返事を返しながら、トリスタンは作り切った笑みを浮かべた。
「誤魔化すなんて恐れ多い!!只々、ご報告出来る事柄を見つけれず、こうして申し訳無いと謝罪に参りました。」
「ほう……。謝罪か…。」
「えぇ。謝罪にございますよ。明日早朝より調査させて頂きます。その時には、しっかりご報告できますよ。」
「結局、マリアンヌは何を気にしてた?」
「お母上の名前が上がる理由ですね。」
ニッコリと適当に出した話題は思いのほかガイノスには効果的だった様で、ぐう。と押し黙ってしまった。
「兎に角。本日ご報告出来る事はございません。ですので、わたくしはお暇させて頂きます。明日はよろしくお願い致します。」
しっかりと臣下の礼を捧げトリスタンはクルリと黍を返し出口に向かった。
「あぁ。そういえば、あのソウマ?でしたっけ?まだ兄上は見つかって無いようです。焼死体の中に該当者は居ません。ですから一度、行方不明者を精査された方が良いですよ。」
ふと思い出した事をついでに告げ、トリスタンは今度こそ、仮本部からお暇する為に外に出てた。
さて……。まずは、諜報部に顔を出しリリーに報告しなければな。
転移魔術を作動しトリスタンはその場からを後にした。
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