森の住人と日常

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私は、今、夢を見みてる…。 底なし沼の沈んで抜け出せなくなる様な悲しみと苦しさに溺れ、身動きが取れない頃の私が、泣きたくても泣けなくて無表情のまま鏡に写る自分を見てる。 どうしようもない現実に叫び出したいはずなのに、ただ自室の姿見をジーと見つめる私。 あれは……そう……。辺境地に祈祷に向かう日の早朝……。どんなに頑張っても変わらない環境に嫌気がさしていた時の私。 誰も味方が居ない。苦しくて胸が張り裂けそうで…自分しか出来ない崇高な公務の筈の祈祷が、重い鎖のように首に巻き付きギュウギュウ締め付けてくる気がして…用意も準備もする気になれず…寝間着姿のまま立ち尽くす私。 その表情は生気が全くないの。 ズキン。ズキン。と針で刺す様なあの時感じていた胸の痛みが瞬時に蘇る。痛い…痛いわ…胸が。 思い出したくもない苦痛な日々。心が傷つき、その傷口からダラダラと血が流れてく。 だけど……今なら解る。私のすぐ側には、ちゃんと私を護ろうとする人達が居た。私は決して一人では無かった。私を見てくれる味方は、ザックやナスカ達以外にも沢山居たの。なのに…私は無意味に、私を視界に入れない人…大好きな婚約者の彼に救いを求めていた。側に私を支えてくれる人が沢山居たのに ……それをあの頃の私は気付いてなかった。 私が地方に赴く時には必ず護衛大隊を指揮して下さった軍部警備隊の方々。 祈祷について何も知らないからと一から指導して下さった魔術院の魔術師長殿。 皇族一家に嫌われようとも私に尽くして下さった侍女達。 皇城の中で必死に守ってくれた近衛騎士達。 あの後…彼らはどうなったの…? 《知りたいの?》 響いた声は知らない声色なのに私はなんの疑問も持たず質問に答えた。 《知るのは怖い…わ。》 《怖いの?》 《怖いわ…。だって…私ですら…火焙り。》 《終わった事よ。全ては。》 《だけど同じ事が起きないと言えない。》 《そうね。それを受け入れれる?》 《……解らない。だけど回避したい。》 《なぜ……?》 《好きで居たいから。》 《何を……?》 《私自身と周りの人々を。》 《どうして……?》 《愛したいから…。》 《誰を…。》 《私と私を愛してくれる人を。》 《そう。では許しなさい。起きた全てを。》 その声は難しい事を言う。許すとは一体何を??だってあれは…私の視野が狭過ぎたから起きた事。勝手に彼に救いを求めた。私の業。 誰のせいでもない私自身の問題だわ。 《そんな自分も周りも許してあげて。》 《許せるかしら?》 《大丈夫。信じて…今の自分を。》 《難しい…わ。でも…私が居ないと生きて行けないって言う人が居る。だから…自分を信じたいわ。》 《そう。では…貴女のこれからに祝福を。》 その言葉を最後に…私は夢から醒めたのよ。 瞼が緩やかに上がる。私を見下ろすザックの表情は、普段の甘やかフェイスとは違い、無表情でいて瞳に心配気な気配を纏ってる。 「魂の浄化は終わったかしら?」 寝起き独特の掠れる声で笑みを浮かべ伝えれば、ぎゅーと抱きしめられた。 「うん。綺麗だったよ。浄化の繭に包まれてる姫さまは。」 「そう。なら一緒に聖剣を取りに行きましょう。」 「しょうがないな。良いよ一緒に行こ。」 ザックはそのまま私を抱き上げた。上半身を上げ周りを見渡す。ユーリさんの聖剣は苦笑い。神龍さまは楽しそうに目を細め、金色の気を纏う高貴な身姿の天使は微妙な表情、隣に居る案内役の天使は頬を赤らめ私達を見てた。 「……やっぱ龍族の愛情は重いわ。」 ボソリと呟いたのは金色の気を纏とう高貴な身姿の天使さん。 「天使長殿…お前も大概だぜ。人の事は言えん。」 あぁ……。やはり高貴な方なのね。彼は呆れた表情のままザックと神龍を見つめて態とらしいため息を吐いた。 「まぁ良い。魂は浄化した。ユーリによろしくな。土台は整えた。聖剣は呼び出せるだろう。但し…龍族も同時であるならフィールドは特殊なモノとなるぞ。いいのか娘。」 「はい。一緒なら大丈夫だと思うので。」 「そうか。なれば何も言わない。アイリス、アシュヴィンの間に連れてけ。」 「了解です。お疲れ様でした!!」 案内人の天使に声を掛けて天使長様は去って行ったの。 「では、アシュヴィンの間にご案内しますね!」 「では、私は帰ります!マリーさま頑張って下さいね〜。」 ユーリさんの聖剣は去って行き、私達は再び案内人に着いて行くの。
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