森の住人と日常

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「引き離す作戦かぁ?!」 何百と撃つ剣は簡単に遮られる。手答えはまるでない状況にザックは高揚感で口角が釣り上がるのを止められなかった。 ピタリと空で止まった相手に、ザックは剣を上空から叩きつける様に振り抜いた。 「ん〜。覚醒してねぇなテメェ。」 片手にダラリと持った剣を素早く動かし、ザックの攻撃を受けた相手は、体をしなり握った拳を素早くザックの腹に打ち込んだ。 「グゥ。」 強烈な拳に吹き飛ぶザックは、瞬時に肉体強化魔術を脚に複重させると、身体をグルグル回しながら、相手の場所を確認にする。金色の男は同じ場所でダルそうに立っていた。 「…すっげぇムカつくわ。」 「おお。ムカつけムカつけ。」 剣を持たない手でガジガジと頭を搔く男は余裕綽々だ。 「…覚醒促してやろうか?」 「はっ??」 「因みに、促してやったところで今だけ。だけどな。」 攻撃を仕掛ける為に剣を振り上げた身体をピタリと止め、ザックは訝しげに相手を睨む。 「テメェさ、気付いてんだろ?番さんのが力使い方熟してんぞ。お前の場合、覚醒をお前自身が拒んでる。」 「だからなんだ。」 「うぅん?解んねーか?俺ら神なんだぜ?龍族の冬眠期を短縮してやるって言ってんだ。」 「なんで?」 「あー飽きた。アイツと違って俺基本的に飽きんだよ。とりあえず覚醒してから闘ってやる。」 そのセリフと共にザックは神力の繭に閉じ込められた。ギャアギャア喚くザックを繭の外から見つめ男は楽しそうに目を細める。 「気付いてねーみたいだから教えっけど、テメェ覚醒したら俺と互角に闘えんぞ。」 「なんでだよ。」 「知らねぇのか?テメェは聖魔龍種。神龍の次に強い。実質最強龍種だろ。」 「……だから記憶が残ってんのか?」 「あぁん??ちげぇ。それは別だな。」 「……冬眠期はどれくらい短縮出来んだ?」 「〜ん。1日だな。」 「はっ??」 「ココで一回覚醒しときゃ、1日だ。だが現実世界に戻ってから覚醒するまでの期間が伸びる。けど…体内魔力は増える。ついでに神力が膨大に使えんぞ。」 「なら、よろしく!!」 「おぉ。そん中で大人しくしとけ。番さんの闘いでも見学するぞ。あの娘。なかなか見所がある。」 なんて、ほのぼのした会話をしてるなど、激闘を繰り広げてる私は知らなかったのよ。 「はぁ。はぁ。はぁ、、ッツ。キッツイわね。」 息が切れる。額から顎を通り滴り落ちる汗。腕でグイッと乱暴に拭い、向かい側で余裕綽々な男を睨みつける。 ムカつくわ…全く攻撃が通らない…。 ゴクリと唾を飲み込んで、深く深呼吸を繰り返し、思い浮かべるのは魔力回復ポーション。 目の前に出現したそれを一気に飲み干した。 パン。と手を合わせ体内魔力を循環させ体力増幅魔術も同時に発動させる。 重力・炎・水・風・土・雷・闇どれも空振り。瞬間移動を辞めさせなきゃ無理だわ……。まてよ。 そうか…移動させなきゃいい。 回復した魔力と神力を利用して巨大な正方形の感知魔術付き防御結界を男と私を中心に形成する。 『正しき者の無き世界  悪夢に満たるこの大地  我今ここに求むは世界の秩序  その対価に全ての存在無に消すとしても  我と汝と全てを滅ぼせ終末の火よ。 全てを焼き払らえ。メルトン』 古語で詠唱をしながら、両手を広げ魔力を限界まで凝縮させ大量に天空に写し出された魔法陣に注ぐのよ。 向かいの金色の男が初めて驚愕の表情を浮かべたの。 魔法陣から熱風が吹き荒れる。私は瞬時に自分に最上級の防御結界を展開させる。 爆音を響かせて龍の形をした業火が、正方形の防御結界の中を暴れ周り、開いた口で男を飲み込んだ。 「言ったでしょう?…わたくし…負けるの嫌いですのよ?」 男の周りにはデスペルの魔法を展開しといた。だから逃げ出せないはず。だけど気を引き締めて業火が消えるのを注意深く見守った。 業火が鎮火し、魔術が昇華した頃、地上には金色の男が気絶して倒れてたの。 パチパチパチ。 拍手が真横から聞こえ、横を見るともう一人の金色の男が苦笑いを浮かべ立っていた。 「エグいな君。古代魔術まで熟してるとは。アシュ起きろ。手ぇ抜き過ぎ…負けだ。聖剣を渡してやれ。」 気絶してた男に、フワリと癒しの羽衣が掛かる。羽衣が飛散して消えると男が苦笑いを浮かべ立っていた。 「あんま、手を抜いたつもりは無い。」 フワリと浮き上がり此方に飛んで来た男は、私の前でピタリと止まった。 「君。魔銃が良いの?」 「慣れてますね。あぁでも…レイピアも良く使用致します。」 「ふぅん。なら変形型にする?」 「出来るんですか?」 「うん。じゃあさっきの武器渡して。」 「はい。」 「ん。じゃあ作るからちょっと待ってな。」 そう言って彼はフッと消えたのよ。 「そういえば…ザックは?」 「あぁ。今覚醒中。」 「覚醒??」 「おぉ。覚醒したら俺と模擬戦な。んで終わったら聖剣やるよ。なんかアイツ面白いし。」 「面白い?」 「おぉ。君の影響だな。また二人で遊びにおいで、アイツが現実で覚醒してからな。」
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