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2回目の人生の始まり
「姫様、本日より専属の侍女が参ります。」
キツイ表情のままの侍女長が淡々と発した言葉に、私は目をパチクリと動かした。まだ1歳の私に伝えるには丁寧過ぎる言葉で私の前に立つ侍女長。
コクリとゆっくり頷き返せば、侍女長の隣に立つ執事長が解りやすくほっと息を吐いた。
コンコンコンコン。
四つのノックの後、ゆっくりと扉が開き年若い侍女が、緊張した面持ちで入室してくる。
「レイラ此方へ。」
侍女長の言葉に、レイラと呼ばれた侍女は、ぎこちない動作で侍女長の隣に立った。
緊張してるせいか、固まる笑顔が可愛らしくて
私は自然に頬を緩ませてしまう。私の表情に、目を見開き驚いたレイラは、次の瞬間、花が綻ぶ様な笑顔を見せた。
「本日より姫様専属侍女になります。レイラ=イシュマールでございます。どうぞ良しなに。」
鈴なりの声で言葉は発したレイラは、深々の腰を折り臣下最上級のカーテシーをする。
あぁ、懐かしい…。
かつて彼女は、真摯に愛情を持って仕えてくれていた。彼女以外で私に誠実に接してくれる人物など皆無だった。
前皇帝妃の忘れ形見であるはずの私は、何故か貴族の者達に「忌み子」と比喩られていた。
その為、叔父上の屋敷で軟禁されるように囲まれて養育されていた私。軟禁だからか、叔父上の家族との接点など皆無だった。
けれど、見目が「白銀の髪と金色の瞳」という皇族特有の物だったため、皇城皇宮は、私を無視するよりは、使える駒として育てる事にしたのだろう、10歳の時の魔力測定をキッカケに、私は皇族教育を受ける様にと通達された。
私が、皇城に皇族教育で上がる時に、レイラは叔父上から排除されてしまった。納得がいかなくて、叔父上に抗議しても受け入れて貰えず…。
「そんなにレイラが欲しければ、皇族教育をしっかり真っ当しなさい。」と諭された。言われた通りに頑張ってる間に、レイラは自領に戻ってしまった。
今思えば、単純に彼女の身分が皇宮に仕えるには足りなかったのだろう。
あの後、噂でレイラは、求婚されてる男性と演劇を見に行ってる最中に、暴漢に襲われてしまい、屋敷に篭ってしまってると聞いた。
あぁ、そうか…。叔父上はレイラを私に再び付ける気は無かったのだろう。私に縋る場所を作らせ無い為、いや…レイラの幸せの為に。
前世の時は、レイラは不幸に見舞われてしまった。ならば今生で、私は、レイラの不幸を回避する事は出来きないだろうか…。いや、回避してみせる。厄介な立場の私に献身的仕えてくれるだろう彼女には、必ず幸せを掴んで貰わなければ。
私がすべき事は沢山ある。こんなところで篭っていては何も出来ない。だから、どんな形か解らないけど、私は、ここから出て行く。
母上の愛した国を、自分の目で見て回り、何を成すべきか見極める為に、そして、レイラの不幸を回避する為に。
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